「ホームムービーの日」実施時における上映フィルムに関連した記録について~現状と課題~

*このレポートは2011年度アーカイブズ・カレッジ短期講座の修了論文として提出したものを改訂したものです。
竹森 朝子

1. はじめに

私は、地域に眠る8ミリを中心とした小型フィルムを持ち寄ってみんなで鑑賞する「ホームムービーの日」(以下、HMD)という上映会を、出身地である青森県で6年続けて開催しています。HMDは、個人の記録であることが多い小型フィルムを、フィルム所有者の語りを聞きながらみんなで見て、その楽しさを共有することで「フィルムを捨てないで」ということを訴える上映会でもあります。年に一度、10月の第3土曜に世界中で同時開催されるこの会を、日本ではNPO法人映画保存協会(以下、FPS)が開催を呼びかけ、私のように、HMDに興味はあるもののフィルムに関して素人であることが多い開催者をバックアップしてくれています。FPSでは、HMDを地域で開催する際に中心になる人物を世話人と呼んでいます。

世話人である私は、HMDを開催するごとに、上映フィルムの状態を記入したシートやフィルムを試写した時のメモ等の記録、そしてHMD当日に会場で語られる言葉等の情報をどうまとめるか悩むようになりました。記録は年々増えるばかりです。フィルムは持ち主に大切に保管してもらい、誰がどんな内容のフィルムを持っているのかをこちらで蓄積して、青森県内の小型フィルムの所在目録を作れればいいのではないかと思うこともありましたが、それを求めている人がいるのか、誰かのためになるのかもわかりません。それよりも、まずHMDという上映会自体を知ってもらい、小型フィルムに触れてもらうことの方が優先されることだろうとも思います。ですが、ただたまって放置されているだけの記録も気になるのです。

このレポートでは、HMD開催時に出てくる記録や情報について説明していきます。これらの記録や情報は誰かのためになるのでしょうか。もしそうだろしたら、その記録や情報を今よりもっと整理し、残すにはどうしたら良いのでしょうか。

2. 「ホームムービーの日」について

私が扱いかねている記録や情報について語る前に、HMDについて簡単に説明したいと思います。

HMDに関しては、前述したFPSによるホームページ「ホームムービーの日」がわかりやすく教えてくれます。少し長いのですが、そちらの「HMDとは?」という項より引用します。

「《ホームムービーの日 HMD》は、名もなきフィルムに光をあてる記念日です。世界中のフィルムアーキビストの呼びかけにより、家庭や地域に埋もれているフィルムを持ち寄って上映するイベントが毎年この日に催されます。9年目の1011年には世界14カ国(米国・カナダ・ドイツ・オランダ・イタリア・スペイン・日本・フランス・ブラジル・メキシコ・アルゼンチン・オーストリア・英国・タイ)68会場が参加しました。この日をきっかけに貴重な映像が発掘され、映画フィルムの適切な保存方法が広まりつつあります。またこの日は、ホームムービーが記録してきた20世紀という時代を再発見する絶好のチャンスでもあります。」

日本では2003年の豊橋、福岡開催をはじめとし、東京・名古屋・大阪などで行われています。東北では2006年に私が青森県弘前市で実施したのが初めてとなりました。2011年は国内12会場で実施されました。

3. モノとして残る情報~フィルムを映写機にかける前後の記録について~

さて次に、私が扱いかねている記録、フィルムの状態を記録したシート、試写時のメモについて説明します。これらはHMD上映フィルムを募集し、所有者からフィルムをお預かりした後の作業に関わって生まれるものです。

3-1 シート
お預かりしたフィルムはすぐに映写機にはかけられません。映写機にかけられるかどうか、状態をチェックすることからはじめます。この作業は、FPSが2008年9月に実施した「8ミリフィルムインスペクション研修2008」で学びました。以降、フィルムの状態をチェックする時には、この研修時に講師の小川芳正氏が使用されたA4サイズ1枚の「フィルム・インスペクション チェックシート」(以下、シート)を使用しています。

当初は、よくわからないまま、ただシートにそって作業し、その結果を記入していました。例えば、「タイトル」の項には、フィルムが入っている紙の箱やプラスチックのケースに書かれているタイトルのようなもの(撮影者のメモ書きであることが多い)を、多少長くなってもそのまま記入していきます。そのうち、「タイトル」を記入する付近に、それ以外の情報も書き込むようになりました。例えば、フィルムは1本でお借りすることもあれば、フィルムが複数入っている段ボールごとお預かりすることもあります。後者の場合、シートの記録とフィルムを照らし合わせることができるように、フィルムにはマスキングテープや付箋紙等、簡単にはがれる紙素材のものに番号を書き込んで貼り付け、その番号もシートに記入するようになりました。シートにはフィルム所有者名を記入する箇所がないので、それらの番号は自然と「竹森①」といったように、「所有者の名前・番号」で書くようになりました。また、フィルムは、前述のとおり紙の箱に、プラスチックのケースに、ビニル袋にと、様々な物に入っていたり、入っていなかったりします。その他にも、フィルムの端をリールに留めるためのプラスチックの器具や、やはりフィルムの端を留めるための四角いスポンジがついていたりします。それらが別のフィルムのケースや付属品と混じってしまわないよう、簡単にメモするようになりました。以上のような情報も含め、フィルムに目切れがあったか、リーダーはついていたか、そしてそれに対してどう対処したかをシートには文字化していきます。当初は1人で行っていたチェック作業も、ここ1、2年はもう1人のスタッフが手伝ってくれるようになりました。そのため、まずはシートにタイトルと番号、前述のように箱やケースに入っているか、付属品はあるか等までを記入し、それから担当を決めてシートとフィルムをわけ、作業するようになりました。シート1枚で、自分が作業したフィルムでなくとも、作業の記録が共有できるようになりました。《資料1》は、実際に2人で1枚のシートを使用した例です。

《資料1》

3-2 試写時のメモ
フィルムのチェックが終わり、そのフィルムが映写機にかけられる状態であることがわかると、次に試写を行います。この時、可能であればフィルムの所有者にも立ち会っていただきます。フィルムの所有者の中には、かつて自分が撮影したにもかかわらず、映写機が動かなくなったため何が写っているか不明な人、また家族が撮影したものだが、やはり映写する手段と機会がなく映像を見たことがない人も少なくありません。試写を行う際、私たちスタッフは、フィルムに何が写っているか簡単にメモを取ります。フィルム所有者と一緒に試写を行った場合は、フィルム所有者の感想、またフィルムにまつわる思い出が語られることがあるので、そういった「語り」の情報も合わせてメモを取ります。このメモには様式がなく、何かの裏紙を使用することもあれば、ノートを使用することもあります。そのうち、このメモは3-1のシートと一緒に保管した方が便利であることがわかりました。HMDで上映するフィルムや、上映フィルムの順番を決める時に、フィルムの状態や内容が参考にできるからです。このため、試写時のメモも、シートと同じA4サイズの紙を使用するようになりました。

3-3 フィルム所有者による記録
この他、FPSではHMDで上映されたフィルムのデータベース作成のため、やはりA4サイズ1枚の「ホームムービーの日 登録フォーム」という登録用紙を世話人に任意で提出させています。この用紙には、フィルムをお借りした所有者の連絡先等の記入欄があるため、私はフィルムをお借りする際にフィルム所有者に連絡先を記入していただくのにも使用しています。フィルム所有者が撮影者である場合は、フィルムの内容等も記入してもらえますが、前述の通りフィルムの所有者が撮影内容を知らないこともあるので、その場合は試写の後に世話人である私が記入し、フィルム所有者にその内容を確認してもらうこともあります。《資料2》は、フィルム所有者自身に記入をお願いした例です。こちらは所有者自身が撮影者であるため、フィルムの内容も詳細に書かれてあります。

《資料2》

3-4 改善点と課題
以上、フィルムをお預かりしてから映写機にかける前後に発生する情報の記録(主に紙媒体のもの)について見てきました。

今すぐできることとしては、現在使用しているシートを基に、私が独自でシートを作成することが挙げられると思います。例えば、フィルムの所有者名、番号(これらは、現在のような「所有者の名前・番号」ではなく、「番号/お借りしたフィルムの数」とした方がいいのかもしれません)、お借りした日、フィルムが何に入っていたかいないか、付属物はあるかの記録を記入する欄が考えられます。あまり細かくしてしまっては、私を含めたシートを使って作業する側に負担となることも予想されます。ですが、全部を埋めなくてもいいこととして、欄を存在させることで、1本のフィルムにはたくさんの情報が含まれていることが、シートを見た時にわかるのではないかとも考えます。ただし、作業を簡易化するには、フィルムの外見でわかる状態=フィルムが何に入っていたかいないか、付属物はあるかに関しては、写真で撮影してしまう方がいいのではないかとアーカイブズカレッジを受講して感じました。特に、複数のフィルムを、そのフィルムが入っていた箱ごとお借りした場合、箱に入っている状態も含めて記録できるという意味で有効なのではないかと思います(ただし、紙媒体と写真のデータをどうつなげて整理していくかに関しえては課題となります)。また、前述のように、現在私はフィルムのチェック作業を他の人間と分担して行っているため、誰がいつそれを記入したか、誰がいつどんな作業を行ったかもシートに記録されなければいけないと感じました。これもアーカイブズカレッジを受講してわかったことです。

さて、これらのシートやメモは何かに活用できるでしょうか。試写に立ち会えないフィルム所有者に対しては、お預かりしたフィルムの状態や写っている内容を伝えるすべとはなります。ですが、フィルム所有者やHMDの世話人やスタッフ以外の人間にとっても必要なものなのでしょうか。アーカイブズカレッジで学んだように、アーカイブズで大事なことが、目録を入り口として、一般の人が資料を利用できることであるならば、HMDにおいては、実際にフィルムを見てもらうことこそが大切であることのように思います。そういった意味では、シートやメモは、目録には程遠いのですが、個々のフィルムが存在するという証拠にはなるのかもしれません。ただし、このシートやメモを入り口としてHMDに足を運んでいただくという方法を考えるには至りませんでした。また、年々蓄積するメモをどう整理していけばいいのかについても、私の中でまだ答えは見つかっていません。現在は、HMD開催年ごとの固まりでファイルしている状態です。しかし、フィルム所有者のなかには、膨大な量のフィルムのなかから、毎年1本を選んで貸して下さる方も数名いらっしゃいます。アーカイブズカレッジで学んだ「シリーズ」「フォンド」「アイテム」で言えば、所有者をシリーズとした分類で整理していった方がいいのではないかとも考えました。

以上は今後の課題です。シートやメモといった記録を、私ではない人間が見た場合でもわかるようにするため、簡易な目録を作る必要性はひしひしと感じております。
 

4. モノとして残すのが難しい情報~上映時に語られる情報について~

ここでは、3で述べた記録の他にHMD開催時に発生する、文字化されない情報について述べていきます。

4-1 上映時の記録
HMD当日、フィルム所有者の語り、あるいはフィルム所有者がHMD会場に来られない場合には、フィルム所有者から聞いた情報を司会者が代弁するのを聞きながら、上映会来場者はフィルムを鑑賞します。その際に、映像を見ながら、「あ、この場所知っている●●だ」「自分もこれと同じおもちゃを持っていた」「昔はこんな風に●●をした」等等、来場者による語り、また来場者同士による会話が生まれてきます。HMDは個人の記憶がたくさん出てくる場でもあるのです。これらの語りや会話も貴重な記録になるということを毎年実感するのですが、記録化することができずにおり、歯がゆさを感じています。知人の厚意で、上映会の様子を撮影してもらう機会があってからは、今のところ記録するには撮影が一番有効なのではないかと思っています。文字化する手間がないからです。

身近な例だと、青森県立郷土館が開催する「土曜セミナー」は、講師と会場の許可を得て、USTREAMで中継、また常時公開しています。土曜セミナーは「郷土の歴史・文化・自然などについて、ゲストキュレーター(客員学芸員)と当館学芸員が、わかりやすく」話すものです(青森県立郷土館ホームページより引用)。青森県立郷土館では、会場に来られない人にも土曜セミナーを体験してもらうすべとして中継を実施しているそうです。これだけなく、当日配布の資料や、使用したパワーポイントも、講師の許可が得られれば、どんどんブログで公開されています。担当の方のお話では、当日会場に来られなかった人、また後から会を知った人のために、できる限り公開をしていくとのことでした。HMDにおいても、フィルム所有者や会場の許可を得られた場合においては、USTREAMによる中継は有効な手段かもしれません。

4-2 フィルムお預かりの時の会話
以上に述べてきたように、フィルムにまつわる記録以外に、HMD開催にあたって出てくる情報があります。それは、フィルム所有者のご自宅におうかがいし、何とか話をしていくなかで出てくる、フィルム所有者の記憶の語りです。それらの情報は、個人の来歴でもありますし、その場限りのものとなります。ですが、その場で消えてしまう語りを残せないものかと考えてしまうこともあります。フィルム所有者には年配の方も多く(60代~90代)、その人が生きてきたなかでの貴重な話をお聞きしているのだと私自身が感じるからです。《資料3》はそういった会話を交わした際のメモです。これらは、私のノートの中に、一部残るだけとなっています。考え出すときりがないのですが、これもなんとかできないかというのも今後の課題です。

《資料3》

5. おわりに

ここまで、HMD実施時に生まれる記録や情報について述べてきました。書くことで、自分が今まで行ってきたことの振り返りにはなりましたが、考察には至らず、また課題も多く、まとまりきれないままの文章になってしまったことはお恥ずかしい限りです。3-4でも述べましたが、HMDにおいては、上映こそが資料の公開であるとするならば、シートやメモをいかに活用するかが今後の課題であります。HMDで、個人の記録であることが多い小型フィルムの存在について知ってもらい、みんなで見る楽しさを体験してもらうことで、フィルムが貴重な資料であることを認識してもらい、また、フィルム所有者にはフィルムを捨てないで保存してもらうことにつながれば、これ以上の喜びはありません。その契機として、シートやメモの活用方法まではまだ思いつかないのですが、シートやメモが生まれてくる作業を公開することはできるのかもしれないと思い至りました。フィルムチェックの作業や試写を、誰でも見学・参加できるかたちで行うことにより、フィルムについて知ってもらう、HMDに足を運んでもらうきっかけになるかもしれません。

最後になりますが、私のような素人をアーカイブズカレッジに受け入れて下さり本当に有難うございました。他の方のように緊急性のある課題ではないのですが、自分が行ってきた活動を、よりよく行うための、まずは何より頭の整理になりました。こういった学びを得られる機会があることを、できるだけ広めていこうと思います。

Language: English

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