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路地裏の映画保存活動[海外篇]

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路地裏の映画保存活動[海外篇]

映画の里親制度の原点 “Adopt-a-Film”

FPSは2004年、戦前の家庭用無声劇映画の復元プロジェクトを《映画の里親》と名付けました。元を正せばこの名称は、フィルムアーキビストにお馴染みのキャッチフレーズ、またはキャンペーン用語である “Adopt-a-Film” を独自に解釈して取り入れたものです(フィリピンのフィルムアーキビスト団体SOFIAやハーバード・フィルムアーカイブなどに先例が見受けられます)。

未だ映画保存を学ぶ環境が整っていない日本で、映画の発掘から復元・上映を経て長期的な保存環境の確保に至る長い道のりを初心者に体験させることこそ、《映画の里親》の主要な役割です。このプロジェクトを通してFPSの会員は、フィルム技術者や映画史家らと出会い、映画保存を巡る国内の厳しい現実を学びつつあります。

里親(資金提供者)を募ることのほかに、復元資金を獲得する手段が現在のFPSにはありません。全米映画保存基金(NFPF)や全米芸術基金(NEA)などにより、毎年数多くの映画が復元されている米国とはずいぶん事情が異なります。例えばNFPFは、1996年より176団体所蔵のフィルム1,322本を救いました。救われる映像は氷山の一角にすぎませんが、長期継続することで確実に成果は蓄積されます。

例)
全米映画保存基金
NFPF:NATIONAL FILM PRESERVATION FOUNDATION
2008年の対象作品:31団体所蔵のフィルム52本

作品:
ジョセフ V. スタンバーグ監督の長編デビュー作『救ひを求むる人々 The Salvation Hunters』(1925)、トム・ミックス主演のサイレント西部劇、ジェローム・ロビンスの舞台『ゴルトベルク変奏曲』の記録映像、ネイティブ・アメリカン初の映画監督であるジェームズ・ヤング・ディアの1910年代の作品 ほか

基金を受けるフィルムアーカイブ、博物館、大学等:
アラスカ映画保存協会、アンソロジー・フィルム・アーカイブズ、バッファロー・ビル歴史協会、シカゴ・フィルムアーカイブ、ジョージ・イーストマン・ハウス、ルイジアナ州立博物館、NY近代美術館(MoMA)、国立自然史博物館、ノースイースト・ヒストリック・フィルム、イェール大学 ほか

これら基金に加えて同じく米国では、毎年末のお楽しみとして25本のフィルムが文化財として登録されます(ナショナル・フィルム・レジストリー)。さらに、欧米にはフィルムアーキビストを養成する学校もあり(当サイトのリンク集を参照のこと)、映画保存を専攻する学生に特化した奨学金も複数用意されています。優秀な学生が復元専用ラボや映像アーカイブにインターンとして送り込まれ、NFPF、NEA、メアリー・ピックフォード財団などからの資金提供で復元を任され、フィルム像アーキビストとしてデビューすることもあります。こうした基金の、あるいは文化財登録の対象となるフィルムは、MoMAやUCLAなど大規模なフィルムアーカイブに所蔵されている劇映画だけではありません。

例えば、小規模なフィルム・コレクションを所有する地方の博物館であっても応募することができ、選ばれるジャンルはドキュメンタリーに実験映画からアマチュア制作のホームムービーまで、多岐に渡ります。

例)
ナショナル・フィルム・レジストリー(1989〜)
2007年の25本:

バック・トゥー・ザ・フューチャー(1985)
Bullitt (1968)
未知との遭遇 (1977)
恋に踊る (1940)
ダンス・ウィズ・ウルブズ(1990)
天国の日々 (1978)
Glimpse of the Garden (1957)
グランド・ホテル (1932)
孤独な場所で (1950)
リバティ・バランスを射った男 (1962)
Mighty Like a Moose (1926)
裸の街 (1948)
情熱の航路 (1942)
オクラホマ! (1955)
Our Day (1938)*
Peege (1972)
The Sex Life of the Polyp (1928)
当りっこハリー (1926)
三匹の子豚 (1933) アニメーション
乗合馬車 (1921)
Tom, Tom the Piper’s Son (1969–71)
十二人の怒れる男 (1957)
The Women (1939)
嵐ケ丘 (1939)

2007年度のナショナル・フィルム・レジストリーのリストに “Our Day”(1938)という作品が含まれます。これはケンタッキー州のアマチュア作家が平凡な中流家庭の日常を記録したホームムービー(12分)です。実は《ホームムービーの日》という国際的な記念日が、このフィルムの発掘のきっかけをつくりました。前年の2006年にもやはり《ホームムービーの日》を通して、ダウン症の少年の成長記録 “Think of Me First as a Person”(1960−70s)が25本の中の1本に選ばれています。

HMDとは無関係ですが、アマチュア映像として2000年のナショナル・フィルム・レジストリーに選ばれた作品に “Multiple Sidosis”(1970年)があります。

地域のフィルムは地域で守る “Home Movie Day”

地域のフィルムは地域で守る “Home Movie Day”

FPSが初年度の2003年(豊橋・福岡にて開催)から国内で普及につとめる《ホームムービーの日(HMD)》は、現在、世界11カ国、国内12会場で開催されるまでに広まっています。

各地でHMDを切り盛りするオーガナイザーを日本では「世話人」と呼びます。日本のHMD世話人は職業的なフィルムアーキビストではありません。日本以外の国では、あくまでも専門的な知識や技術を持ったフィルムアーキビストが主導するイベントであり、会場もベルリン映画博物館、アンソロジー・フィルム・アーカイブズ、テキサスやフロリダ等地域映像アーカイブの数々、イタリアの国立ホームムービー・アーカイブなど、いざとなったら行き場のないフィルムを引き受ける体制が整っています。ましてや米国では、発見から数ヶ月後に国家の文化遺産として登録される可能性まで用意されているのです。

方や日本では、何ら組織的な後ろ盾もなく、HMD開催を決めるまでフィルムを触ったことがなかった/映写機の操作法も知らなかったという世話人も珍しくない状況です。適切な保存施設もありません。これは日本のHMDの最大の特徴であり、極めて興味深い点でもあります。会場数は多いものの、集団で同じところを走っているようにみえて、実は欧米から何周も遅れているわけです。世話人と並走しながら小型映画のインスペクション技術を磨き、機材確保も含めて上映環境を整えていく過程で、必要に迫られて生まれたのがFPS小型映画部です。

1つ1つのHMD会場は規模こそ小さいものの、世話人は日本各地で「フィルムを捨てないでください」というメッセージを発信しています。地元の博物館や視聴覚ライブラリーで一旦は廃棄処分になったフィルムを、瀬戸際で救った世話人も実際にいます。東京都台東区では地域映像アーカイブ事業準備室が始動していますし、変化の兆しがないわけではありません。地域や家庭の映画フィルムの煙滅に危機を感じ、実践的な活動に取り組む世話人は、未来の地域フィルムアーキビストとしてのポテンシャルをじゅうぶん備えているように思われます。

FPSも、ノースイースト・ヒストリック・フィルムのカラン・シェルダン氏、スコティッシュスクリーン・アーカイブのジャネット・マクベイン氏はじめ、遥か先を行く地域映像アーカイブやアーキビストたちの仕事に強い影響を受けています。これから、一足飛びに追いつくことが果たしてできるでしょうか。

AMIAとSEAPAVAA、そして《世界思視聴覚遺産の日》

次に、視聴覚アーカイブに関連する団体をみてみましょう。
以下はCCAAAに所属している8団体、数字は設立年です。
Joint Technical Symposium(JTS)の主催8団体とも合致します。

Co-ordinating Council of Audiovisual Archives Associations CCAAA

– Association for Recorded Sound Collections ARSC 1966

– Association of Moving Image Archivists
動的映像アーキビスト協会 AMIA 1991

– International Association of Sound and Audiovisual Archives
国際音声・視聴覚アーカイブ協会 IASA 1969

– International Council on Archives
国際公文書館会議 ICA

– International Federation of Film Archives
国際フィルムアーカイブ連盟 FIAF 1938

– International Federation of Library Associations and Institutions
国際図書館連盟 IFLA

– International Federation of Television Archives
国際テレビアーカイブ連盟 FIAT/IFTA

– Southeast Asia-Pacific Audiovisual Archive Association
東南アジア太平洋地域視聴覚アーカイブ連合 SEAPAVAA 1996

HMDを設立した仲間たちは、現在はNPO法人ホームムービー・センターを立ち上げていますが、そもそものきっかけとなったのは動的映像アーキビスト協会(AMIA)と呼ばれる組織です(本部:米国LA、個人会員数750)。日本からの入会者は驚くほど少なく、その原因はFPSにも正直なところ、よくわかっておりません。何れにしても映画保存に興味を持つ者が、何はともあれ入会する団体がAMIAです。入会には何の制約もなく、年会費さえ支払えば良いのです。

SEAPAVAAは2年前に活動範囲をアジア全域に広げ、FPSも賛助会員として、2007年のカンボジア会議から参加しています。残念ながら今のところ、日本からはFPSが唯一の加盟団体ですが、東アジアからは香港電影資料館が積極参加しています。SEAPAVAAの創設者の一人で、FPSの生みの親でもあり、NPO法人ホームムービー・センターほか数々の組織の役員をつとめるレイ・エドモンドソン氏(その華々しい経歴はとてもここには書ききれませんので、Archive AssociatesのHPをご参照ください)はまた、ユネスコ《世界視聴覚遺産の日》の推奨者でもあり、AMIA会議を北米以外の都市で開催する運動を提唱したり、SEAPAVAA加盟視聴覚アーカイブをJTSに招聘したりと、国際交流を積極的に進めています。

それに呼応して、オセアニアだけでなく欧米からも有能なフィルムアーキビストがSEAPAVAAに参加していますが、SEAPAVAAの中で日本の存在感は皆無に等しく、国際的な潮流から置き去りになっている事実には唖然とするばかりです。ボランティア団体であるFPSはあらゆる意味で力不足で、情けないことに何の貢献もできていません。実際に皆さん自身が参加することで、SEAPAVAAがいかに重要な組織であるのかを確かめていただいたいと切に願います。

レイ・エドモンドソン氏の著作「視聴覚アーカイビング:その哲学と原則」は、フィルム保存を学ぶ者にとって極めて重要かつ和訳されている数少ない文献の一つです。FPSは現在、NFPFの「フィルム保存の手引き:文書館、図書館、博物館のための基礎知識」のほか、パオロ・ケルキ・ウザイ(著)「Silent Cinema: An Introduction」(BFI)の翻訳に取り組んでいます。

基礎テキスト1「家庭でもできるフィルム保存の手引き」(AMIA、IPI)
⇒ PDFダウンロード

基礎テキスト2 「フィルム保存の手引き:文書館、図書館、博物館のための基礎知識」(NFPF)
*現在は会員のみ閲覧可能

基礎テキスト3 「視聴覚アーカイビング:その哲学と原則」(ユネスコ)
⇒ PDFダウンロード

ところで、AMIAやSEAPAVAAのニューズレターやウェブサイトには、視聴覚アーキビストのための年間カレンダーが必ず掲載されています。以下に例として2008年のイベント・リストを載せました。星(★)はFPSが何らかのかたちで参加した/参加する印です。

[2008年2月]
第3回アジア・アーカイブスセミナー ★
Third Asian Seminar on Audiovisual Archives 東京→ 『メルマガFPS』Vol.33
第3回《ユネスコ 国際視聴覚遺産の日》会議 キャンベラ オーストラリア

[3月]
ARSC会議 パロアルト USA

[4月]
第64回FIAF会議 パリ フランス

[5月]
韓国映像資料院祭(リニューアルオープン) ソウル ★
→『メルマガFPS』Vol.36

[6月]
第12回SEAPAVAAマニラ会議 フィリピン→ 『メルマガFPS』Vol.38 – 40 ★
FIAFサマースクール/チネマ・リトロヴァート ボローニャ イタリア ★
→『メルマガFPS』Vol.39

[7月]
第16回国際公文書館会議 クアラルンプール マレーシア

[8月]
第74回国際図書館連盟会議 ケベック カナダ

[9月]
FIAT会議 コペンハーゲン デンマーク

[10月]
ポルデノーネ無声映画祭 イタリア ★
ホームムービーの日 ★
ユネスコ 世界視聴覚遺産の日

[11月]
AMIA会議 サバンナ USA ★

尚、FPS会員による海外の関連施設訪問、会議/映画祭参加等の報告は、おもに《月刊メルマガFPS》に掲載しています。当HPのトップページからご登録いただけます。入手した資料等は資料室に所蔵がありますので、興味をお持ちの方はぜひご利用ください。

FPSのHPの英語版は一時的に閲覧できない状況になっています。今しばらくお待ちください。FPSでは、活動内容をできる限り日本語と英語の二カ国語で報告するよう努力しています。学問としても、実践の上でも、映画保存の取り組みは国内だけに閉じこもって進められるものではありません。海外から多くの情報を吸収するだけでなく、自らの活動成果を発信し、国際交流を進めることを心がけています。

Language: English

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今後のイベント情報

06/10
東南アジア太平洋地域視聴覚アーカイブ連合(SEAPAVAA)会議
04/16
国際フィルムアーカイブ連盟(FIAF)会議
04/10
オーファンフィルム・シンポジウム
11/30
東京現像所 全事業終了
10/27
日韓映写技師会議 in 福岡

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