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[訃報]サム・クーラ氏

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[訃報]サム・クーラ氏

2010年9月8日、カナダの視聴覚アーキビスト サム・クーラ氏が逝去されました。ここに謹んでご冥福をお祈り申し上げます。映画保存協会会員一同

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追悼 サム・クーラ氏
児玉優子

2010年9月10日の深夜、AMIA (The Association of Moving Image Archivists、以下AMIAと略)のメーリングリストに元会長サム・クーラさんの訃報が流れた。彼の著作を通して視聴覚アーカイブについて考える多くの手がかりを得てきた私にとっては、師を失ったような心細さと寂しさである。

クーラさんはカナダ生まれ。1958年に英国映画協会でフィルムアーキビストとしてのキャリアをスタートする。最初の上司はアーネスト・リンドグレンで、彼の代理としてアンリ・ラングロワと初めて会ったとき、ラングロワの態度は冷たかったという。ご存知の方も多いと思うが、当時リンドグレンとラングロワはフィルムアーカイブのあり方について、ことあるごとに対立していたのだ。国際フィルムアーカイブ連盟(FIAF)を設立したパイオニアたちの時代を知るクーラさんの、キャリアの長さを物語るエピソードだ。

後に米国映画協会のアーキビストを経て、1973年、クーラさんはカナダの国立公文書館に新た設置された国立映画・テレビ・音響アーカイブズに迎えられる。そして館長としてカナダの視聴覚資料保存の礎を築いた。1978年にカナダ北部ユーコン準州ドーソン市のホッケー場建設予定地から約500巻のナイトレートフィルムが見つかった際には、フィルムの救出に尽力した。ポール・スペア氏はこの発見を、動的映像アーカイブにとって最も劇的な出来事と評している。また、研究面では動的映像の評価選別の分野で2つの大きな著作を遺された。

クーラさんは、FIAFをはじめ国際的な場でも活躍した。国際社会が初めて映画やテレビ番組の保存の重要性を認識したのが、1980年のユネスコの『動的映像の保護及び保存に関する勧告』だが、彼はこの勧告の取りまとめにも大きな役割を果たした(ちなみに、この勧告の採択から25周年を記念して制定されたのが、10月27日の「世界視聴覚遺産の日」である)。2001年から2004年までは2期にわたってAMIAの会長も務められた。

これらの業績によって、クーラさんは2006年にAMIAのシルバーライト賞を受賞する。アンカレッジ大会で表彰された彼は、受賞スピーチの最後に『マイ・ウェイ』を歌い始めた。私は「こんな場で歌う人がいるの?」とあっけにとられたが、それは彼自身のアーキビストとしての人生をよみこんだ替え歌で、会場を大いに沸かせていた。

そして昨年、3年ぶりにセントルイスでの大会に参加した私は、初めてクーラさんと話す機会に恵まれた。ホテルのエレベータの先客が彼だったのだ。この機を逃しては、と勇気を出して、「あなたの著作から多くのことを学びました。そのお礼を一言申し上げたかったのです」、そう伝えたところで、もう一人の大会参加者が「やあサム!」と乗り込んできた。私に与えられた時間は終わったな、と思いきや、クーラさんはその知人から一緒に上映会にと誘われたのに、「悪いけど、私はこの人と話があるから」と断り、私を上映会にお供させてくれたのだ。おかげで、カナダの視聴覚アーカイブについて長年疑問に思っていたことを質問することができた。こんなお人柄だからこそ、多くの人から敬愛されたのだろう。

あれからまだ1年足らず。まさかこれが最初で最後の会話になるとは思いもよらなかった。「わからないことがあったらいつでもどうぞ」と名刺もいただいて、お聞きしたいことはたくさんあったのに、先送りにしてきたのが悔やまれてならない。けれども、お目にかかってお礼を言えたのだから、“間に合った”幸運を喜ぶべきなのかもしれない。今ごろは天国で、リンドグレンやラングロワに現在のフィルムアーカイブの様子を報告しているだろうか。

クーラさんの数々の功績を偲びながら、ご冥福をお祈りしたい。

映画保存協会メールマガジン『メルマガFPS』Vol.63(2010.09.30)より

【参考リンク】
ドーソン市のフィルム救出の記事
http://journals.sfu.ca/archivar/index.php/archivaria/issue/view/367/showToc

動的映像アーキビスト協会(AMIA)Silver Light Award受賞者紹介記事(PDF)
http://www.amianet.org/events/sl/sl_2006.pdf

「動的映像の保護及び保存に関する勧告」(仮訳)(PDF)
http://www.mext.go.jp/unesco/009/004/026.pdf

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