コンテンツ記述の領域は近年、おびただしい数の変化を経験している。従来の目録マニュアルは改定されることもあれば、デジタル時代に合わせて別のものに置き換えられることも。ネットワーク化された時代には、これまで以上に共有しやすく、すぐ使えて、かつ再利用できるデータが求められる。情報のオンライン化も急かされる。そこで、メタデータの作成が注目を集めるようになった。実際のところ、1991年に国際フィルムアーカイブ連盟(FIAF)がフィルムアーカイブのための目録規則[1]を公表した時点では、まだメタデータという用語や概念は知られざる存在であった。用語として「目録作業(カタロギング)」と「メタデータ」は同義ではない。しかし目録作業によって(機械生成に対する)人間生成メタデータが作成されるという意味で、両者は関連している。本稿が取り上げる2016年の「FIAF動的映像目録マニュアル」(以下「FIAFマニュアル」)[2]は、目録作業者(カタロガー)を対象に、広範囲にわたる動的映像資料のメタデータ作成を専門的に指導し、動的映像資料の記述をデジタル時代に適合させるものである。人もコンピュータも含むあらゆるエンドユーザーの要求を満たすメタデータを確実に作成するため、その範疇はライフサイクル(出所、保存、アクセス)の全領域にわたる。
ボーンデジタルの、そしてデジタル化された動的映像コンテンツの増加がめざましい昨今では、記述の実践も移行させる必要があり、「FIAFマニュアル」はその点をよくわきまえている。収集・保存およびアクセス提供を行う機関は、これまでどうしていたかというと、時代遅れの手引き、動的映像に特化されていない目録マニュアル、コンピュータの特性に傾注するメタデータ構造の標準(EBUCore、PBCore等)に頼っていたのである。これらがコンテンツや資源の記述方法を詳しく教えてくれるわけではない。
「RDA」という略称で知られる2010年の「資源の記述とアクセス」(従来の「英米目録規則」の後継)のような現役の目録規格や手引きに同じく、「FIAFマニュアル」もまた、効率的な階層記述[3]を取り入れている。階層記述によって、ある1本の映画を受け継ぐすべての版(バージョン)の固有性が考慮される。版ごとに形状、上映時間、画面比率が違っても、オリジナルの題名(タイトル)、製作年、言語は変わらない。そこで、FIAFマニュアルは四つの階層的な実体(エンティティ)を以下のように定義する。
著作(ワーク):
動的映像として表現される知的コンテンツ
異なり(バリアント):
字幕の追加等のようにコンテンツを大幅に変更しない範囲で作品に加えられる変更
著作または異なりの体現形(ワーク/バリアントのマニフェステーション):
特定の公表状況や形状のための「著作」や「異なり」の具体化
個別資料(アイテム):
体現形の保持や複製
目録作業者がこれら四つの実体の違いを見極められるように、わかりやすい図表(決定木)や実例も多く示されている。これら四つの核となる実体の相互関係は明確であり、付加的な実体もまた同様である。付加的な実体には例えば以下の二つがある。
行為主体(エージェント):
配役、配給会社、アーカイブズ等
出来事(イベント):
公開、製作、保存等
PREMISの保存メタデータの標準[4]に馴染みのある方は、行為主体や出来事等の概念の類似にお気づきかと思う。ただしこの場合の概念は、コンテンツの作成から保存から保全まで、コンテンツのライフサイクルすべてに拡大される。
FIAFマニュアルは、使いものになるメタデータの作成を促すため、できる限り緻密で一貫性ある目録入力を目指す。例えば国名に「ISO 3166」、日付と時間に「〔米国議会図書館の〕拡張日付/時刻フォーマット(Extended Date/Time Format)」のような既存の標準の使用を提案して、該当箇所に値を与える。カラー方式(パテカラー、キネマカラー等)、サウンド方式(ドルビーSR、VA RCA Duplex等)、アパーチャー(アカデミー 1.33:1、アナモフィック等)といった動的映像に特有の概念を集めた用語集を添えることで、統制語彙の領域にも貢献する。
272頁もあって広範囲に及ぶが、とっつきにくくはない。文書はわかりやすく編成されている。まず導入部には、目的や使途、モデルのコア要素、読解やナビゲーションに役立つ情報等が書かれている。第1章から第3章では、このFIAFマニュアルが定める四つの核となる実体(著作、異なり、体現形、個別資料)が詳しく扱われている。ここには定義、区別、属性、要素ごとの関係性、そして幅広い実例も含まれる。また文書の残りに付録があり、この付録が有益な手引きとなっている。例えば付録Aは、多様な事例(優先題名の情報源、句読点、記号、別題名、題不明の場合はどうするか等)を考慮しつつ、すべての実体における題名と題名種別の構築方法を扱う。付録Dは、総合的な値リストを提供する。付録Eは、図版を多用して集合体を独自に考察し、早見表としての付録Kは、実体ごとの簡便な要素の一覧に、これら要素を扱う各章への内部リンクを添えている。
FIAFマニュアルは目録入力の手引きであり、最良の実践例であり、機関ごとの手引きの標準でもあるが、使途はそれだけに留まらない。(XMLスキーマ定義、略してXSDのような) スキーマを伴わないので、PBCoreやEBCore等、そのほかの構造標準、あるいはデータベース設計を伝える必要データ一式と組み合わせて使用することも可能である。
常に推移する動的映像の目録作業への極めて重要な貢献として、「FIAFマニュアル」の出版は賞賛に値する。FIAFの目録作業とドキュメンテーション委員会には次の段階として、付録Dの値リストのリンクトデータ語彙としての公表、あるいは、外部団体と協力して既存の語彙の拡張を検討してほしい。さらに指摘するとすれば、もう少し使い勝手のいい形態で公表してはどうか。この長大な文書の利用者は現在のところ、文書上部の目次を参照するか、あるいは埋め込まれたリンクに頼るしかない。PDF版の目次をサイドバーに開いたまま使用すれば急場しのぎにはなるが、やはりウェブ版の登場が待たれる。最後に、利用者が質問を投げかけ、解決方法をやり取りし、フィードバックを受け取れるような手段を用意することを同委員会にお願いしたい。
初出:Journal of Film Preservation #96 (国際フィルムアーカイブ連盟、2017年)
(C)Kara Van Malssen/FIAF
日本語版作成:映画保存協会 2017年5月