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プノンペンにある、映画・映像資料の保存施設

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プノンペンにある、映画・映像資料の保存施設

鈴木 伸和

 

2013年7月、カンボジアの首都プノンペンを訪れました。なぜプノンペンに行ったのか、その理由は2点あります。

一つ目は、2010年にタイのバンコクで開催された東南アジア太平洋地域視聴覚アーカイブ連合(The Southeast Asia-Pacific Audio Visual Archives Association, SEAPAVAA)の会議に参加した時に、同じ東南アジアであっても、最貧国に位置づけられるカンボジア、ミャンマー、ブルネイ等の映画保存に関する情報が比較的入手しづらかったという経験があったからです。それらの国の映画に関する情報を得るためには、直接現地に行ったほうがはやいと感じたことが最初のきっかけでした。

二つ目は、2012年の東京国際映画祭でダヴィ・チュウ(Davy Chou)監督の『ゴールデン・スランバーズ』(2011)と、ティ・リム・クゥン(Tea Lim Koun)監督の『天女伝説プー・チュク・ソー』(1967)を観たことでした。アジア映画史に関する文献では、カンボジアの項目がほとんど無いことが多いのですが、上記の2作品を見て、カンボジア映画史の豊かさを発見し、より知りたいと思ったことがカンボジアへ行く後押しをしました。

観光の合間に時間を見つけていくつかの施設に足を運び、映画・映像資料の保存に関する調査を行いましたので、4つの施設(ボパナ視聴覚リソースセンター、カンボジア国立公文書館、カンボジア資料センター、プノンペンの映画館)に分けて報告します。

カンボジアと言えば「内戦・地雷・貧困・アンコール遺跡群・国際援助」と画一的な印象しか持たれないこともあるようですが(私もそうでしたが)、本報告が、カンボジアの映画・映像保存の現状、さらに、発展途上国の映画・映像保存の現状を少しでも知ってもらうきかっけになれば幸いです。

ボパナ視聴覚リソースセンター

Bophana Audiovisual Resource Center
http://www.bophana.org

ボパナ視聴覚リソースセンター(以下BARC) は、タイの難民キャンプからフランスに渡って映画監督となったリティ・パニュ(Rity Panh)と、カンボジア文化芸術省(Ministry of Culture and Fine Arts)が、フランス政府の助成を受けて2005年に共同で設立した施設です。

その目的は、カンボジア国内にある、またはカンボジアに関する視聴覚資料を収集し、デジタル化して市民に無償で公開することにあります。そして、視聴覚資料を歴史遺産として認識してもらい、その資料を通して自国の歴史を学べる場を、訪れる全ての人に提供しています。

BARCには5つの部署(Archives、Audiovisual、Communication、Restoration、IT)があり、職員数は約30名です。ほぼ全員フルタイムで働いていますが、専門のフィルムアーキビストは残念ながらいません。給与は日本円で月約3万円とのことで、首都圏の専門職では平均的な金額と言えます。

理解を深めるためにカンボジア映画史を簡単に説明します。

カンボジアで最初に映画が上映されたのは1909年で、商業用のカンボジア劇映画が最初に製作されたのは1958年です(※1)。それから1975年までの約17年間に、約450作品の劇映画が製作された黄金時代がありました。しかし、クメール・ルージュ時代(1975-1979)にその9割以上が意図的に廃棄されたため、現在では約40作品のみが残っています。その後もカンボジア国内では内戦状態が続き、1980年代後半からはテレビが普及したこともあり、国産の映画本数が大きく増えることはありませんでした。カンボジア文化芸術省の統計によれば、2010年の国産映画はわずか6作品です。2012年は24作品に回復しましたが、国内で上映された映画のわずか5パーセント程度に過ぎません(※2)。

そのようなカンボジアの歴史を背負ったBARCは、プノンペンの中心地にある4階建ての建物にあります。

1階に展示空間と上映ルームがあり、毎週土曜の16時に映画が定期上映されます。デジタル上映ですが、自国の映画を含む世界各国の映画を上映しています。この上映会の他にシネクラブもあり、月に2回、隔週で日曜日の15時に開催されています。シネクラブとは、映画の上映に加えて、上映した作品の監督やスタッフ、研究者等による講演等を含めたプログラムです。BARCは上映も含めて施設全体が入場無料です。

ボパナ視聴覚リソースセンター2階はBARCのデータベースを使用して、デジタル化された視聴覚資料をパソコンモニターで自由に閲覧が出来る空間です。総検索すると2602件あり、これは動画ファイルだけではなく、写真や音声、文書資料も少量含まれた総件数です。パソコンが10台ほど設置されていて、誰でも気軽に利用することが出来ます。無料ですからストリートチルドレンも見に来るそうですが、スタッフが追い返したりすることは絶対にしないとのことです。識字率の低い彼(彼女)らは、本ではなく、むしろ視聴覚資料こそが必要だとも言えます。

動画ファイルは、映画史初期のパテ社のトラベローグから、ユネスコ世界視聴覚遺産の日を記念してBARCで2012年に上映されたカンボジアの学生短編映画まで、施設内に限って幅広く閲覧することが出来ます。その他に写真資料の例として、戸田洋子さん(1944年生まれの日本人写真家)の写真が、Yoko Todaコレクションとして141枚がデジタル化されており、閲覧することが出来ます。データベース上には「彼女は1965-66年にアンコール遺跡付近で遺跡と市民の生活を撮影していた」と記述されているため、理解も深まります。ただし、データベースのモニターは写真撮影が禁止されているため、複写は出来ません。

データベースを保存しているサーバはBARCの施設内にあり、24時間空調を効かせています。バックアップは毎日行っているそうですが、同じ部屋の別のサーバで行っているため、もし仮にこの施設に電気的な問題や自然災害等が起こった場合、一瞬にしてデータが消えてしまうそうです。外部でバックアップを行う場合は約400万円が必要で、金銭的な問題で今後も解決出来ないだろうとのことでした。

さて、データベース内のカテゴリーの一覧を見てみると、欧州から提供された素材が多く、例えば「Department of Cinema and Diffusion(DDC)」、「L’établissement de communication et de production audiovisuelle de la défense(ECPAD)」、「Centro italiano aiuti all’ infanzia(CIAI)」、「Cunited Nation Development Programme(UNDP)」、「International News」等があり、中でも「Gaumont Pathe Archives」で247件、「INA」で476件の動画ファイルがあります。私が気になった「カンボジア国内の日常風景」というカテゴリーでは、12件の動画ファイルしか登録されておらず、こちらはあまりにも少なすぎるように思いました。このように、BARCのデータベースは欧米の視聴覚アーカイブから寄贈されたデジタル素材が大半を占めているということが分かります。

BARCにはカンボジア国内にある視聴覚資料が頻繁に持ち込まれるそうです。例えば、田舎の子どもが土の中から偶然、映画フィルムを見つけたので持ってきたという、その16ミリフィルムの現物も見せてもらいました。ボロボロになったその映画フィルムは、適切に扱える人材が国内にいないために内容や状態を確認することが出来ず、未だ題名も分からないとのことでした。子どもが見つけたのが地雷ではなく映画フィルムで良かったと思いながらも、私はフィルム技術者として日本とカンボジアとの格差を痛切に感じました。

カンボジア文化芸術省映画部通常、カンボジア国内にある映画フィルムは、文化芸術省の映画部(Cinema & Cultural Diffusion Department, Ministry of Culture and Fine Arts)が所有しているビルの地下で、ある程度の温湿度管理がされた状態で保管されています。私は外観だけしか見られませんでしたが、そのビルは2階から上は、窓ガラスが割られて廃虚のようになっていました。さらにプノンペンの雨期は停電が頻繁にあり、1回の停電で約2-3時間電気が止まるそうですので、まさにカンボジア国内でのフィルム保存は綱渡りの状態と言えます。

BARCは様々な視聴覚資料を扱っていますので、例えばカンボジアの田舎の村に伝わる民謡を録音するフィールドワーク等、映画以外の分野でも幅広い活動をしています。もし興味をお持ちの方がいらっしゃいましたら是非一度ホームページをご覧下さい。

カンボジアの映画監督と言えば、カンボジアで最初の映画監督でもある故シハヌーク(Norodom Sihanouk)前国王が有名ですが、彼のオリジナルの映画フィルムはカンボジア国内にはありません。関連資料群と共にオーストラリアのモナシュ大学図書館に2005年に寄贈されたそうです。当時は存命中でしたので、自身の意思で寄贈したのだと思います。カンボジアの過去の歴史や、現在の状況を考えれば、国外保存も正しい選択だと思いますが、しかし、いつの日か、祖国に安心して戻れる日が来ることを願わずにはいられません。

本訪問ではBARCのアーカイブズ・コーディネーターであるチア・ソピアップ(Chea Sopheap)氏にお世話になりました。心よりお礼を申し上げます。

(※1)David Hanan(編)「Film in South East Asia: Views from the Region」(太平洋地域視聴覚アーカイブ連合・ベトナム映画協会・オーストラリア国立スクリーン&サウンドアーカイブ 2001)
(※2)岡田知子「カンボジア映画の現在」(The Cambodian Films at the Present Time)『東京外国語大学東南アジア学紀要』(2013)

カンボジア国立公文書館

National Archives of Cambodia
http://www.nac.gov.kh/english/index.php

カンボジア国立公文書館(以下NAC)は、フランスがカンボジアを植民地化(保護国化と言う人もいる)した初年の1863年に設立された施設です。ウェブサイトによれば主な収蔵資料は新聞、雑誌、写真、ポスター、地図、図面(plan)など10万点を超えているようで、職員は現在17名いるそうです。とても少数ながらフィルムと視聴覚資料のコレクションを最近設立したとウェブサイトに記載されていましたので、NACに行ってみることにしました。

場所はプノンペンの中心地にある米国大使館の真向かいにある国立図書館(National Library of Cambodia)と同じ敷地内にあります。

国立図書館は若く希望にあふれた学生たちで賑わっていましたが、NACは入口が大変分かりづらく、ようやくたどり着いてみると誰一人利用していない状態でした。言い過ぎかもしれませんが、図書館と公文書館との関係は日本と似ている印象があります。

NACの受付でフィルムコレクションのことを聞いてみると、マイクロフィルム担当の親切な女性がフィルム保管庫を案内してくれることになりました。NACは本館のすぐ横に別館があり、共に4階建てで、本館に紙資料、別館にフィルムが保管されているとのことです。別館は鎖と南京錠で施錠されており、普段は本館しか入ることが出来ません。解錠してもらい別館の中に入ってみると、1階に検査室と事務所、奥にフィルム保管庫があり、2階と4階がスタッフルームで、3階には新聞が保管されています。1階奥のフィルム保管庫は市販のクーラー2台で温湿度が管理されており、近くにあった温度計を見てみたら摂氏23度でした。部屋の全ての資料は大きなガラスケースの中で保管されています。

フィルムコレクションは約2万フレーム分のマイクロフィルムが主で、動的映像資料はDVDとVHSが数十点あるのみで、映画フィルムは所有していないとのことでした。DVD、VHSはシハヌーク前国王の作品を主に保管しているようです。

フィルム保管庫の横にある検査室には、マイクロフィルム用のリワインダーと複写機等がありました。この機材は2000年頃に国際交流基金アジアセンター(Japan Foundation Asian Center)から無料で寄付してもらったものだそうで、私が日本人だと言うと、何もしていないのに私まで感謝されてしまいました。

カンボジアでは内戦の影響で、NACは1995年までタイプライターが2台しかなかったそうですが、1998年から3年間、トヨタ財団の支援を受けたことに加えて、フランスやオーストラリアのアーキビストたちを中心とした各国の協力により、NACの状況は飛躍的に好転したそうです(※3)。しかし現在、複製は全てデジタルスキャンしているため、マイクロフィルム関連の機材は埃を被っていました。マイクロフィルム担当は3名から2名に減ったそうで、わずか十年で技術も大きく変わるため、持続可能な支援の難しさも感じました。

本館に戻り、映画関係の文書を検索してみようと思ったのですが、そもそも私はクメール語の読み書きが出来ないので、写真資料を検索してみました。NACはマイクロソフトアクセスをデータベースとして使用しており、検索はクメール語、フランス語、英語の3カ国語でできます。

写真資料は19世紀半ばから1980年代までの資料が約1万点以上あるそうですが、検索してみると8762件でした。データベース上にある写真資料は全てデジタル化されているため、リファレンス用のモニター1台で全ての写真を閲覧することが可能で、この点は利用しやすいと思いました。利用者用のパソコンは館内に1台しかありませんが、利用者があまりいないので1台でも十分なのかもしれません。

オリジナルの写真プリントは中性紙で保管されており、一次資料へのアクセスも可能です。

キーワード検索をしてみると「film」で170枚の写真がありますが、ほとんど全てCharles Meryer(1945年から1970年までカンボジアに在住したフランス人。シハヌーク前国王のメディア・公共戦略の補佐役(Norodom Sihanouk’s assistant and advisor on media and public affairs))のコレクションでした。彼のコレクションだけで6287枚ありますので、NACの写真資料の約70パーセントを占めていることになります。この点はBARCと類似しており、このことについて、欧米の「カンボジア観」を押し付けている、と指摘する研究者もいます。

もう少し調べてみると、映画関係の写真は1960年代の映画館の写真が3枚(「cine-Eden」(白黒)、「cine phnom penh」(白黒)、「Cinema Phnom Pich(Diamond mountain Cinema)(カラー)」と、劇映画のスチル写真や撮影現場の記録写真などがそれぞれ十数枚あるのみで、残念ながらそれほど多くはありません。データベースの写真データは持参したUSBメモリ等にコピーすることも可能とのことですが、1枚10USDとかなり高額です。

実際、NACを訪れてみると、その前後で印象は大きく異なりました。ポルポト政権後に生き残った職員はたった1名で、目録カードが燃やされ、保管庫に鳥が巣を作っていた(※4)という20年前の荒廃した状態から考えると、現在は大きく進展したように思います。

2005年にはアーカイブズ法がカンボジアの国民議会で可決され、各省庁の公文書をNACに移管するための法的根拠と共に、アーカイブズ資料にアクセスするための個人の権利が正式に認められたそうです(※5)。今後、公文書館の利用者を増やすためには何が必要か、これは世界的な課題かもしれません。

(※3)Peter Arfanis「Introduction to the National Archives of Cambodia」

http://www.khmerstudies.org/download-files/publications/siksacakr/no2/archives.pdf

(※4)ピーター・アフラニス(Peter Arfanis)「カンボジア国立公文書館」『トヨタ財団レポートNo.95』(2001)

http://www.toyotafound.or.jp/profile/foundation_publications/zaidanreport/data/tr_no95.pdf

(※5)「Freedom of Expression the Media in Cambodia」Article19(2006)

http://www.article19.org/data/files/pdfs/publications/cambodia-baseline-study.pdf

カンボジア資料センター

Documentation Center of Cambodia
http://www.dccam.org/

カンボジア資料センター(以下DCCAM)は、イェール大学にあるカンボジア・ジェノサイド・プログラム(Cambodian Genocide Program, Yale University)の現地オフィスとして1995年にプノンペン市内に設立され、1997年からは米国、カナダ、欧州連合、オーストラリア、日本等の資金によりNGOとして独立しました。

DCCAMのオフィスは、カンボジア現首相のフン・セン氏が住んでいる首相官邸の真向かいにあります。

DCCAMの目的は、クメール・ルージュ時代のカンボジアの歴史資料を収集・調査・共有することで、過去に傷ついたカンボジア人の救済を主目的としており、クメール・ルージュに関する世界最大の収集保存機関として、現在65名のスタッフが働いています。

DCCAMには多くの文書資料の複写が保管されており、クメール・ルージュ時代に映画関係者が拘束された際の調書もあります。その数枚を取り寄せてもらうと、どの人物の調書も1枚の紙に、肩書き、名前、年齢、出身に加えて、外見の特徴が記載されており、最後に「反抗的」等と相手の印象が数行書かれているとても簡素なものでした。全てクメール語ですが、手書きのものもあれば、タイプされているものもあり、コピーとはいえ、紙を見ているだけでも当時の時間を想起してしまいます。

DCCAMの活動は文書資料の保存以外にも多岐に渡り、定期刊行物・各種図書の出版、学校の先生等を対象としたクメール・ルージュに関する教育の他、映画製作もしています。最新作『A River Changes Course』は、2013年サンダンス映画祭ドキュメンタリー部門で審査員大賞を受賞しました。現在までに6作品製作されており、内4作品がウェブサイト上で視聴可能です。所蔵している動的映像資料は246点(全てDVD)あり、来館者は誰でもここへ来てその映像を見ることが出来ます。主にクメール・ルージュに関する映画やドキュメンタリーが多く、外部からはデータベースにのみアクセスが可能です。

DCCAMのスタッフでは唯一(カンボジア国内でも唯一?)フィルムアーキビストという肩書きを持ったファティリー・サー(Fatliy Sa)氏によると、DCCAMでは映画フィルムは一切所有しておらず、DVDと、イェール大学で複製したマイクロフィルムを中心に取り扱っているそうです。

そもそも私がなぜDCCAMに行ったのかというと、クメール・ルージュによって国内にあった映画フィルムの多くが廃棄されたと言われているのですが、その直接の証拠・証明があるのかどうか知りたかったからです。それというのも、前に説明したカンボジア国立公文書館では、クメール・ルージュによってその所蔵資料のほとんどが廃棄されたと言われていたのですが、実際は9割以上の資料が廃棄されていなかったということが1990年代の調査で判明した事実があるからです。

映画フィルムも同じように実際は廃棄されていないのではないか、とまでは私も思いませんが、1975年当時、カンボジア国内にあった映画フィルムを、誰が、いつ、どこで、どのように廃棄したのか、その正確な情報を得る必要はあるように思ったのです。しかし、DCCAMのリファレンス担当のダリン(Dalin)氏の言葉を借りれば、「映画フィルムがどのように廃棄されたのか、それは誰も見ていないので分からない」という情報を得られるのみでした。

それでも傾聴すべき情報はいくつかあります。例えば、DCCAMのディレクターであるヨーク・チャン氏の調査(※6)によれば、1996年、映画フィルムを複製のためにカンボジアからフランスに輸出した後、その映画フィルムが行方不明になったということです。こういった情報はどこまでが真実か、私には分かりません。しかし、ただ一つ言えることは、1975年以前にカンボジア国内で製作された映画フィルムの廃棄・紛失・盗難等に関して、未だにその正確な証拠・証明が見つからないということです。

その調査を行うためにも、まず最初にカンボジア国内に残存する映画フィルムのカタロギングを完了させる必要があるように思いました。

本調査は、DCCAMの職員であるファティリー・サー氏、ダリン氏、そしてヨーク・チャン氏の協力を得て行われました。クメール語の資料を懇切丁寧に英訳してくれたダリン氏、メールでDCCAM宛に問い合わせをすると、毎回すぐに返信してくれるディレクターのヨーク・チャン氏、そして、知りたい情報がなかなか見つけられない私に対して、「Welcome to King of Wonder」とユーモアのある言葉を送ってくれたファティリー・サー氏に対して、心からお礼を申し上げます。

(※6)Youk Chhang「Missing Films from Democratic Kampuchea: A French Mystery」(2006)

http://www.d.dccam.org/Archives/Films/Youk%20Missing%20Films%20from%20Democratic%20Kampuchea.pdf

映画館等の上映施設

最後に、プノンペン市内にある、映画館等についてお伝えします。

簡単にカンボジアの映画館の歴史をまとめますと、1950年以前は映画鑑賞がまだ一般的ではなく、1950年代半ばにインド・タイ等の映画が輸入され、次第に映画館が増えました。1960年代のプノンペンには映画館が30館近くあり、国内外の映画が多く上映され賑わっていたそうです(※7)。そして、1973年頃に当時のカンボジア政府が映画館の閉鎖を命じて以降(※8)、一旦はすべて無くなりましたが、内戦終結後に少しずつ増え始め、2007年にはカンボジア国内で24館(内プノンペンに13館)となりました(※9)。しかし、経営上の問題等により急激に減少し、2013年7月現在、プノンペン市内で新作映画を上映する映画館はなんと3館(内2館はシネコン)のみとなっています。

その内の一つシネ・ラックス(Cine-Lux)は、1938年のフランス植民地時代に建設されたアール・デコ調の劇場を、2001年にリニューアルして映画館となりました。座席数650席の1スクリーンで、1日に同一作品が4回程度上映され、料金は作品によって少し変わりますが、大体6000リエル(約150円)です。カンボジア国内ではこの劇場でのみタイ映画の上映が許可されているそうで、年間を通して上映作品の約8割はタイ映画、残りがカンボジア映画とのことです(※10)。

ここでタイ映画とカンボジア映画を各1回ずつ見ましたが、どちらも観客は数人(小さい子どもやお年寄り)しかおらず、公式ホームページも無いため今後が心配です。

残り2館は、共に3スクリーンを持ったシネマ・コンプレックス(以下シネコン)のレジェンド・シネマとプラチナム・シネプレックスです。

Legend Cinema
http://www.legend.com.kh

Platinum Cineplex
http://www.platinumcineplex.com.kh

レジェンド・シネマは、2011年に市中心部のショッピングモール内にオープンし、内戦後、カンボジアで最初にハリウッド映画の上映を国から許可された映画館です(※11)。最初に上映されたハリウッド映画は『トランスフォーマー:ダークサイド・ムーン(3D)』(アンコール・ワットで一部撮影されている)(※12)でした。ここは Westec Media Limited というカンボジアの会社が運営している映画館で、ハリウッドの映画会社と正式契約しブロックバスター映画を上映しています。2011年以前は、どうしてもハリウッド映画が見たい場合は近隣諸国(タイやベトナム)まで観に行ったという映画人の話もありますが、しかし、違法DVD(1枚100円程度)が広く公然と流通しているため、2011年以前でも家庭内では比較的多くの欧米の映画を観ることは出来たようです。

もう一つのプラチナム・シネプレックスも、同2011年にソリヤ(Sorya)・ショッピングセンター内に開館しました。このショッピングセンター内には、2002年にプノンペン文化センターの運営によるカンボジア映画のみを上映する公的な映画館があったようですが、現在はプラチナム・シネプレックスのみとなっています。

カンボジアでは自国の映画を保護するためのクオーター制度が過去にあり、現在は既に規制はないそうですが、それでもある程度の自主規制はあるそうで、この2つのシネコンでは国産映画を4分の1程度は上映するラインナップになっていました。シネコンのチケットは通常2-3USD(約200-300円)と安いため、常に多くの若者で賑わっており、ホラー映画だとみんなで叫び、コメディ映画ならみんなで笑うという祝祭的空間でした。

2014年には日本のイオングループがプノンペン市内の開発地区に巨大なショッピングセンターをオープン予定で、そこにもシネコンが開館する予定です。

しかし、アンコール・ワットがある観光地シェムリアップを除き、カンボジア国内では首都プノンペン以外の地域に新しく映画館が開業するのはまだまだ先になると思われます。

この他に映画を上映するプノンペン市内の施設を3つ紹介します。

German Cambodian Cultural Center
http://www.meta-house.com

ドイツ・カンボジア文化センター(通称:メタ・ハウス)は、2007年にドイツの映画監督 Nico Mesterharm とベルリン自由大学の国際アカデミー(the International Academy at the Free University of Berlin)が共同で設立したカンボジア初のアートセンターです。ドイツ語教室に、アートスペース、屋外上映施設、バーが併設された施設で、劇映画やドキュメンタリー、アート系の映像をDVDで頻繁に上映しています。しかし、映画上映というよりも、お酒を飲みながら壁に投影している様々な映像を見るだけ、という印象は否めませんでした。レストラン形式で壁に投影している映画を観る場所は、プノンペン市内の観光客が多く集まるトンレサップ川沿いに比較的多くあります。

French Culture Centre
http://www.institutfrancais-cambodge.com

フランス文化センタール・シネマ(Le Cinema)は1990年にフランス文化センター内に設立された映画上映施設です。フランス文化センターは語学教室、本屋、図書室、レストラン等があり、図書室にはフランス映画のDVDを多く所蔵しており館内閲覧が出来ます。ル・シネマではフランス映画やカンボジア映画を週1回上映していますが、私は予定が合わず、一度もここで映画が観られませんでしたので詳細は不明です。

Flicks
http://www.theflicks-cambodia.com

フリックスは、2009年に約100人の個人が共同出資して設立したボランティアによって運営されている上映施設です。現在、立地の異なる場所に2スクリーンあり、乾期(12月から3月)のみ野外上映する3つ目の上映会場もあるようです。私が訪れた時は受付兼バーの接客と映写係のスタッフ2名がおり、みなさん別の仕事(英語の教師等)の合間にボランティアとして働いているとのことでした。在カンボジアまたは観光中の欧米人向けの上映ラインナップで、寝ながら映画を観るという居心地の良い空間で私は3回訪れましたが、いつ行ってもカンボジア人は一人もいませんでした(客もスタッフも私以外全て欧米人)。映画に詳しいプノンペン市内のトゥクトゥク運転手やホテルの受付で映画館のことを聞いてみると、上記の施設を全て知っている人でも、フリックスを知っている地元の人には最後まで出会うことが出来ませんでした。

Pannasastra University of Cambodia
http://www.puc.edu.kh/

カンボジアの情報をまとめている参考図書(※13)によれば、この他にカンボジア・パンニャーサッ大学構内でも不定期に上映会が行われているようですが、上映日時の情報を得ることが出来ず、残念ながら一度も行けませんでした。

最後に映画祭について。プノンペン市内で行われる大規模な映画祭に「カンボジア国際映画祭 」(Cambodia International Film Festival)(2010年から毎年開催)(※14)があり、この他にもフィルム・フェスティバルと称する中・小規模のイベントは市内で複数行われています。2000年代には「カンボジア王国映画祭」(The Cambodia National Film Festival)や「カンボジア独立映画祭」(Cambodia Independent Film Festival)等が開催されていましたが、どれも不定期開催が多く、統廃合を繰り返している場合があり、過去の全ての映画祭の正確な情報を得るのは難しいのが現状です。

2013年は映画遺産をテーマとした「Memory! 第1回国際映画遺産フェスティバル」(※15)が開催され、シハモニ現国王も出席されました。ようやく過去の映画に目を向けられる基盤がプノンペンで整いつつあることを示す萌芽に触れた所で、この報告を終わらせたいと思います。

カンボジアは東南アジアの中でも映画に関する情報量が圧倒的に少ないです。もしカンボジア映画史について知りたいという方がいらっしゃいましたら、まずは下記の資料をお勧めします。この他にもし有益な情報がありましたら、是非ご一報頂ければ幸いです。
suzuki(a)filmpres.org

(※7)「KON, The Cinema of Cambodia」カンボジア王立大学メディアコミュニケーション学部(Department of Media and Communication, Royal University of Phnom Penh)(2010)

http://southeastasiancinema.files.wordpress.com/2010/10/kon-the-cinema-of-cambodia.pdf

(※8)岡田知子『カンボジアを知るための62章[人気はホラーと感動もの]』(明石書店 2006)
(※9)「Cinemas in Cambodia」(カンボジア文化芸術省 2007)
(※10)Kirstin Wille『Film production in Cambodia』(2009)
(※11)「プノンペン・ポスト」2011年7月8日付

http://www.phnompenhpost.com/7days/silver-screen-finally-lit

(※12)「カンボジア・フィルム・コミッション」ホームページ

http://www.cambodia-cfc.org/site

(※13)『カンボジア情報ガイドブック2011~2012』(クロマーマガジン編集部 2011)
(※14)「Memory! 第1回国際映画遺産フェスティバル」(Memory! International Film Heritage Festival)映画祭カタログ(2013)

http://www.memoryfilmfestival.org/catalogue/index.html

(※15)大傍正規「『Memory! 第1回国際映画遺産フェスティバル』報告」『NFCニューズレター第110号』(東京国立近代美術館フィルムセンター 2013)

初出:月刊メールマガジン『メルマガFPS』Vol.98〜Vol.101(2013年9〜12月号)

*参考画像は2008年のものです。ご了承ください。

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