TOP > 映画保存とは > 金沢訪問記:中谷宇吉郎 雪の科学館
2006年2月に金沢に行ってきました。蟹も能登牛も金沢21世紀美術館も堪能しましたが、お楽しみはそれだけではありません。
今回の旅の目的は、某フィルムコレクター氏に教わった小さな科学館でした。近頃人気の(?)科学映画の領域では、すっかりお馴染みの物理学者/随筆家・中谷宇吉郎博士(1900-1962)。岩波映画製作所の設立を提唱した人物でもある博士は加賀市片山津の出身で、この寂れた温泉地の生家跡近くに「中谷宇吉郎 雪の科学館」が建っています。
風景との出会いを計算しつくしたこの科学館の建築は磯崎新の設計。入る前からどきどきさせられます。ゆるやかな芝のスロープの先には雪の結晶に似せた六角形の建物への入口、正面が映像ホール、地下に展示室。ホールの先の中庭にはグリーンランド氷河の原が再現され、もわもわと霧が立ちこめています。その霧の向こうにみえるのはガラス張りの小さなカフェ。ここまで来ると唐突に、雪をたたえた白山を背に雄大な柴山潟が視界に広がります。博士ゆかりの品を収集、調査、管理、保存、そして展示するためにこれ以上の好環境はないように思われ、「雪の結晶」「凸レンズ」「霜柱」といった科学映画のフィルムもぜんぶここに集約されたらいいのに!などと勝手に考えを巡らせてしまいました。
博士の残した膨大な資料は様々に工夫を凝らして展示されていますが、中にはお手製のネガフィルム保管ケースや、ガラス乾板がきっちり納まる木製のキャビネットなども含まれます。一流の科学者による几帳面な研究の記録はみていて飽きることがありません。映像ホールでは岩波映画「科学するこころ−中谷宇吉郎の世界」(1995年 ビデオ作品)の上映も日に7回行われています。
羽田空港からたったの45分。小松空港からバスで15分と便利ですし、絶景が望める温泉も含めて片山津はおすすめの地です。
ところで「金沢のまちなかに公設民営の映画館をつくろう」という金沢コミュ二ティシネマ推進委員会の署名運動が話題になっていたので、香林坊109の4階にある映画館「シネモンド」にも立ち寄り、署名用紙をいただいてきました。ネット署名もできるのですが、クリック一つというのはなんとなく抵抗があったのと、FPS会員にも呼びかけて皆で協力したいと考えたからです。
映画館の存続以上に喫茶店の未来を憂いている私としては、109の裏手にある純喫茶ローレンスも外せませんでした。薄暗い店内には初めてとは思えな い不思議な懐かしさがあり、絵描きさんでもある店主のお話も面白く、すっかり寛いで長居しているうちに、同じく老舗喫茶のBOTANが今月で閉じてしまったという悲しいニュースを知らされました。
シネコンやスタバもいいけれど、それだけでは味わえない日々の小確幸が、金沢のまちからこれ以上失われてしまわないことを祈ります。もし金沢観光の折にローレンスに立ち寄られることがあったら、ぜひ「まぼろしのプリン」を注文してみてください。(K)
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