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オランダで発見された『巨巌の彼方』

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オランダで発見された『巨巌の彼方』

【2004.06.01 スティッキー通信 Vol.18】

“グロリア・スワンソンとルドルフ・ヴァレンチノが共演した『巨巌の彼方』がみたいって?それはちょっと難しいね。ネガはもちろんプリントも残らずすべて、この世界から失われてしまったのだから。いかなる手段をもってしても二度とこの作品をみることはできないんだよ”

こんな文章にはじまりフィルムの残存率の低さやナイトレートの経年劣化を解説する頁が、LAの復元映画祭サイト内にあります。ところが、オランダ映画博物館(Filmmuseum)の2004年4月17日付プレスリリースによると、なんと『巨巌の彼方』のナイトレート・プリント、つまりオリジナルの上映用ポジが発見され、復元の後に公開されるというのです。決して映画ファンや研究者、そしてフィルム・アーキヴィストから忘れられていたのではなく、むしろあまりに有名な「失われたフィルム」として幻であり続けていた作品なだけに、その発見の衝撃は大変なものでした。同日BBCをはじめヨーロッパ各国のマスコミが詳しく報道し、数日後には日本の新聞にも紹介されました。さらに本国オランダのテレビ局(VPRO)の「R.A.M」という番組(北野武特集でご存知の方もいらっしゃるかも知れません)でも大きく取り上げられました。日本からもネットを通じてほぼリアルタイムに情報を得ることができたので(但しオランダ語の部分はよくわからないままなのですが)、わかる範囲の情報をここにご報告したいと思います。

まずは物語ですが、年老いた大金持ちと意に反して結婚したイギリス人テオドラ(スワンソン)が、新婚旅行中に美しい貴族の青年(ヴァレンチノ)と恋に落ちるという、ため息のこぼれるような……つまりいかにもヴァレンチノ的メロドラマのようです。「20世紀アメリカ映画事典」によるとアメリカでの公開は1922年5月。日本公開は1923年3月。エリノア・グリンの同名小説をジャック・カニンガムが脚色し、サム・ウッドが監督した8巻ものです。スワンソンといえば、パラマウントが2003年にデジタル復元を完了した「サンセット大通り」での貫禄の演技があまりに有名ですが、劇中と同じく実際の彼女が大スターとして活躍したのはもちろんサイレント期であり、しかし時を同じくして大スターであったヴァレンチノとはこの映画が唯一の共演作となります。

発見の経緯はと言うと、膨大なナイトレート・コレクションを誇る個人コレクターが亡くなった後、遺族から2000缶以上のフィルムが映画博物館に寄贈されたことに端を発します。欧米のアーカイヴは新たな所蔵品に対してまず最初に、唯一無二の所蔵番号を与えるのが一般的です。倉庫番号等とは異なり、以降この所蔵番号が変更されたり削除されることはなく、インスペクションやカタロギングなど、すべての作業においてフィルムは所蔵番号で管理されます。従って、最終的にそのフィルムが廃棄されても、所蔵番号だけは半永久的に残されるわけです。『巨巌の彼方』もしばらくのあいだ、題不明フィルムとして所蔵番号だけを頼りに管理されていました。そして、ガスマスクをつけたアーキヴィストたちがラベルも読めない状態の錆びた缶をこじ開け、コアも抜かれてぐにゃりと歪んだり、カビたり、腐りかけたりしているフィルムを取り出し、いったい何が記録されているものか、一巻づつ丁寧に調査していく中で、ようやく正体が明かされることになります。取り出された劇映画らしきプリントはオランダ語版で、タイトルもオランダ語表記(『GOUDEN BOEIEN』)でした。かつては各国語版を作成するにあたって役名を変えたりエンディングを差し替えたりすることは珍しくなかったそうですが、幸いにもこの作品の場合、役名は英語のままだったことから、担当アーキヴィストが「グロリア・スワンソン演じるテオドラ」というインタータイトルの記述を利用し IMDb, Internet Movie Database で役名検索を試みたところ、『BEYOND THE ROCKS』という結果が画面にあらわれたのです。はじめは目を疑ったそうですが、補修を加えつつ、ばらばらになっていた巻数を正しい順序にに並べかえ、結果として全巻がそろったとき、ついに世紀の大発見となったのです。一巻目が紛失していたり、たとえ全巻が揃っていてもトップのクレジット部分が切れていたりしたら、識別は困難を極めたことでしょう。番組に使用された映像からは、黄色系の染色が施されていること、トップタイトルとエンドマーク(EINDE)が揃って残っていること、使用頻度による傷みは少なそうだけれど経年劣化は部分的にかなりひどく、画が溶けて消えているシーンもあること、エッジコードは一見コダックのもののようにみえること……等がわかります。

失われたと思われていた作品の発見という嬉しい出来事を祝うだけでなく、このように世界に向けて映画保存の大切さが報道される貴重なチャンスを最大限活かすことに、オランダ映画博物館はかなり意識的であったように思います。また担当アーキヴィストは番組の中でフィルムコレクターに敬意を表することも忘れていませんし、映画保存の世界におけるコレクターの存在の重要性と、そのコレクションが秘める多大な発見の可能性について、しっかりと指摘されていました。偶然の仕業でも国の政策でもなく、ある映画ファンの深い愛情によって80年以上の長い歳月を生き延びた悲恋の物語は、ついにスクリーン上に甦ることとなったのです。

Language: English

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