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第7回オーファンフィルム・シンポジウム参加報告

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第7回オーファンフィルム・シンポジウム参加報告

11年前(1999年)にサウスカロライナ大学で産声を上げたオーファンフィルム・シンポジウムも、はや7回目。主宰のダン・ストライブルがニューヨーク大学(NYU)で教鞭をとるようになり、舞台は前回(2008年の第6回)からマンハッタンに移った。参加者338名という数字は、動的映像アーキビスト協会(AMIA)年次総会に比べると半分程度の規模ではあるけれど、同時進行の複数のセッションに分割されるAMIAと違い、このシンポジウムは常に一つの劇場に全参加者が集うためか、より華やかで熱気に満ちている。会場にはアイリーン・バウザー、デイヴィッド・フランシス、サム・クーラといった大御所たちの姿もあった。

ご存知のように、権利者不明の(場合によっては、誰がいつ何のためにどこで撮影したのかもわからない)フィルムを「オーファン(孤児)」と呼ぶ。オーファンフィルムの発掘・調査・復元が米国の映画保存学における調査研究の中心を占めるようになって久しいが、かつてなら廃棄されてしまうか、せいぜい「その他/保留」のカテゴリーに押しやられていたフィルム群の持つ底知れない歴史的・芸術的価値を評価する動きは、日本にも確かに存在する。そういった映像をデジタル化して二次使用することの重要性を訴えるという趣旨であれば、目新しさはないかもしれない。しかしこのシンポジウムはそうではない。映像アーカイブの伝統に則って、焦点は、あくまで物理的なフィルムそのものの救済に絞られている。

4日間に渡るシンポジウムでは、70名の発表者が、あらゆるフォーマットの映像80本を次々と上映した。朝9時から深夜まで、空席が出る時間はまったくなかったと言っていい。ここでは筆者が参加した初日からの3日間を中心に、プログラムの一部を紹介する。以下、上映素材の形状、種別、映写速度などが確定できない作品が多いことをお許し願いたい。

会期:2010年4月7日(水)〜10日(土)
主催:ニューヨーク大学 MIAP(Moving Image Archiving & Preservation Program)
テーマ:Moving Pictures Around the World
会場:SVA(School of Visual Arts)シアター(333W. 23rd St. NY, NY)
参加費:一般300ドル、学生150ドル
*会期中のランチ&ディナー、記念Tシャツ、DVD他各種配布資料含む
参加者:338名
ウェブサイト:http://www.nyu.edu/orphanfilm/orphans7/

Orphan film ist.

[1]発表者:ビル・モリソン(映像作家)&ジョージ・ウィルマン(米国議会図書館)
《ジョン・マドックス・コレクション》より、無声映画断片集
演奏:エド・パストリーニ

[2]発表者:グスタフ・ドイチェ(映像作家)
キンゼイ・インスティチュート・フィルム・アーカイブより〔The Janitor〕(1930年頃)
『Film ist. a Girl & a Gun』(2009年 35mm 93分)

オープニング前夜、アンソロジー・フィルム・アーカイブズにてプレイベント(4台の16mm映写機でスクリーンを4分割する同時上映)があったが、時差ぼけにつき断念。シンポジウム自体は夜8時の幕開けだった。会場のSVAシアターはチェルシーのアートギャラリー街のすぐ近くにある、本格的な舞台装置も備えた480席の劇場だ。

古い映画のフッテージを切って繋いで新しい映像作品を生み出す作家たちの存在はすっかりお馴染みだが、このセッションは「元素材」と、そこから派生した「新作」を併映する試み。まず、郊外のトレーラーハウスに残されていたジョン・マドックスのナイトレート・コレクション発見について、米国議会図書館のジョージ・ウィルマンが現場写真を多数使用して解説してくれた。どういうわけか議会図書館の名入りリーダー付きのプリントも多数含まれていた模様。ビル・モリソンは、劣化して画が溶けているナイトレートの美しさを表現した「DECASIA」(http://d.hatena.ne.jp/filmpres/01270012)が有名。同様の手法を取り入れているウィーンの映像作家、グスタフ・ドイチェが素材としたキンゼイ・インスティチュートのコレクションからは、1930年代のハードコア・ポルノが2本上映された。インディアナ大学を拠点とし、1930年代からアルフレッド・キンゼイが取り組んだ性意識調査(後のキンゼイ・レポート)について、詳しくはビル・コンドン監督、2004年の米国映画『愛についてのキンゼイ・レポート』を参照のこと。米国には、専門的な研究機関が映画フィルムを適切に保存している事例はいくらでもある。

Repatriation

[1]発表者:シュテファン・ドレスラー(ミュンヘン映画博物館)
『Orson Welles’ Sketch Book〔オーソンウェルズのスケッチブック〕No.4』(1995年 BBC 白黒 デジベータ 15分)
[2]基調講演:パオロ・ケルキ・ウザイ(ハーゲフィルム財団)
『The Politics of Film Repatriation』
[3]発表者:マイク・マション(米国議会図書館)&ヴァネッサ・トールミン(ナショナル・フェアグラウンド・アーカイブ)
エジソン社 ディクソン撮影の短編35mmフィルム6本(計12分)《ジョージ・ウィリアムズ・コレクション》より:HORNBACKER-MURPHY FIGHT (1894) 、ANNIE OAKLEY (1894) 、SANDOW [No. 2] (1894) 、CARMENCITA [No. 2] (1894) 、ANNABELLE BUTTERFLY DANCE (1894) 、NEW BAR ROOM [SCENE] (1895)

今回のシンポジウムのテーマ=「Moving Pictures Around the World」には、映画保存を巡る国際協力のさらなる発展への期待が込められている。2日目の朝は、オーソン・ウェルズ研究者でもあるシュテファン・ドレスラーの紹介で、ウェルズ主演のBBCの6回シリーズからの上映。英国で放映されたのは1955年5月5日。2009年にBBC4が全シリーズを再放送した後、YouTubeでも閲覧できるようになった(合法ではないかもしれない)。部分的に自筆スケッチの挿入はあるものの、ウェルズのトーキングヘッドが15分出ずっぱりで「越境」について語る。それに続くパオロ・ケルキ・ウザイの講演テーマは「リパトリエーション」、つまりフィルムの本国返還。

ちなみに、前回の第6回オーファンフィルム・シンポジウム(2008年)でのケルキ・ウザイの講演はこちらで聴くことができる。前回のテーマは「国立映像(視聴覚)アーカイブ」だった。さらに、「オーファンフィルム」を特集したAMIAジャーナルの特別号(The State of Orphan Films “The Moving Image Volume 9″ Number 1, Spring 2009)は、冒頭にケルキ・ウザイの「オーファンフィルムとは何か?」増補改訂版を掲載している。ぜひご一読を(FPSの翻訳は、増補改訂前の旧原稿を使用したもの)。

ナショナル・フェアグラウンド・アーカイブはその名の通り、催事についてのアーカイブで、英国シェフィールド大学を拠点とする。何らかの事情でBFIが引き取れないナイトレート・コレクションなど、たとえ取得方針から外れていても、見捨てるのはしのびなく、つい救済してしまうという… そんな代表者ヴァネッサ・トールミンにかのロジャー・スミザー(王立戦争博物館)が付けたニックネームは「ナイトレート磁石女」。今回上映された6本は、発見・復元された後、議会図書館を窓口に米国に返還された。ナイトレート輸送と通関の難しさへの言及もあった。

Film Connection, Anstralia-America; or, How American Films Got to Oz and Back

発表者:メグ・ラブラム(オーストラリア国立フィルム&サウンド・アーカイブ)、アネット・メルヴィル(全米映画保存基金)、リチャード・エイベル(ミシガン大学)
『Mutt & Jeff: On Strike』(1920年 白黒 無声 35mm 550ft.)
〔米国海軍のドキュメンタリー〕(1915年? 白黒 無声 35mm 11分)

演奏:マーティ・マークス(マサチューセッツ工科大学)

Audiovisual Preservation Exchange (APEX) in Africa

発表者:モナ・ジメネス(NYU)、ジェニファー・ブレイロック(NYU)、イシュマエル・ジンエンジェール(ルワンダ国際戦犯法廷)
ジンバブエ国営放送局の視聴覚アーカイブの火災(1989年/2009年)
ジンバブエ国立アーカイブ所蔵の植民地時代のTickyを主人公にしたフィルム断片集+『The Case of Ticky』(カラー 10分)

ジンバブエの国立公文書館に関してはこちらも参照のこと。イシュマエルは元ジンバブエ国立公文書館の職員で、L. ジェフリー・セルズニック映画保存学校の卒業生でもあるが、現在は母国を離れている。同館元職員のバイオレット・マタンギラも、現在はケニア大学でアーキビストとして働いている。この二人のレポートからは、実に多くを教わってきた。植民地時代のジンバブエにおいて、白人入植者たち向けには35mmのサウンド版、ジンバブエ人向けには16mmのサイレント版(活動写真弁士付き上映!)が慣例だったという。そのあたりの事情を、実際の映像を交えながらわかりやすく解説してくれた。NYUはガーナやブエノスアイレスに留まらず、今後もアブダビやシンガポールなど世界各地でAPEXを積極的に進める方針のようだ。ちなみに、ジェニファー・ブレイロックによる映画保存協会についてのレポートがこちら。仮にAPEX in TOKYOを提案されたらどうしよう… といらぬ心配をする。

World Cinema in the Metropolis of Buenos Aires

発表者:ダン・ストライブル(NYU)&パウラ・フェリックス=ディディエ(ブエノスアイレス映画博物館)
《マニュエル・ペーニャ・ロドリゲス・コレクション》傑作選

『メトロポリス』の幻の場面の発見で一躍有名になったブエノスアイレスの映画博物館。『メトロポリス』について敢えて誰も話題にはしなかったが、『メトロポリス』以外にどんなお宝があるのか、というのが今回のテーマだった。全体的に昨年のAMIA会議と類似していたが、サンプル映像がふんだんに上映されたので飽きることはなかった。アルゼンチン・アニメーション、とても面白そうで、もう少しじっくりみたかったのだけれど、時間の関係で中断されてしまった。

Silent Circuits

[1]発表者:ダン・ストライブル(NYU)
『Origin of Beethoven’s Moonlight Sonata』(1909年 35mm エジソン社)
[2]発表者:マシュー・ソロモン(ニューヨーク市立大学)
『Rip’s Dream』(ジョルジュ・メリエス監督 1905年 35mm)
演奏:ドナルド・ソシン
[3]発表者:ナンシー・ワトラウス(シカゴ・フィルム・アーカイブズ)、ジュディス・ミラー(バルパライゾ大学)、アンリー・ユーリッヒ(NYU)
『A Pictorial Story of Hiawatha』(1904年)
[4]発表者:スコット・シモン
『Ammunition Smuggling on the Mexican Border』(1914年)
演奏:マーティ・マークス

幸福感に満ちたシンポジウム3日目のはじまりは、ベートーベンを主人公にした染色無声映画から。もじゃもじゃ頭のベートーベンが髪をかきむしりながら鍵盤をつま弾いて作曲中。それに合わせて無声映画伴奏者がベートーベンになりきって、時に唸り声を上げて熱演。シンポジウムを通して、すべての無声映画、音のない断片映像や実験映像には(場合によっては即興で)ピアノの生演奏が添えられた。

Asian Fragments

[1]セルゲイ・カプテレフ(モスクワ・リサーチ・インスティチュート・オブ・フィルムアート)
『Their Kingdom』(ミハイル・カラトゾフ&ヌツァ・ゴゴベリーゼ監督 1928年)
[2]グレッグ・ウィルスベイカー(USC MIRC)
〔Aftermath of Japanese Attack on Shanghai〕(1937年?)
[3]ジャン・ジェン(NYU)Hou Yao’s Shadowplay
『海角詩人 A Poet from the Sea』(China Sun Motion Picture Co. 35mm 20分 1927年)
演奏:ドナルド・ソシン

ミハイル・カラトゾフの最初期の作品と推測される映像(いわゆる文化映画)の発見事例。インタータイトルがすべてロシア語なので、映像にかぶせてセルゲイ・カプテレフがロシア語訛りの英語で解説。その歯に衣着せぬ語り口は実に朗らかで、こちらまで元気になってくる。7000人が収容されたという第二次上海事変後の上海市第一収容所を記録したアマチュア・フッテージに続いて、日本統治下時代の上海で撮影された無声映画『海角詩人』。米国で配給された際、いかにも中国らしい雄大な風景の垣間みられる田舎のシーンのみが残され、都会の描写はずべてカットされてしまったという。発表者自身が上海出身で、熱意ほとばしる発表だった。プリントはボローニャのチネテカ所蔵の35mm染色版。その他のセッションでも、南京大虐殺の最中、金稜女子大学に赴任していた布教者家族のホームムービー〔Thomson’s Home Movies of Ginling College, China〕(1930〜38年)や、Colorlabで復元されたサウスカロライナ大学所蔵の日本〜台湾〜フィリピン〜インド〜エジプトを巡る1923年のアマチュア・フッテージなど、日本につながるものが何作かあった。

Rough, Unpolished, but Alive: Black and White Films the Color of Blood

[1]発表者:アンナ・マッカーシー(NYU)、ジャクリーン・スチュワード(ノースウェスタン大学)
特別ゲスト:ジョナス・メカス、エドワード・ブランド監督
『The Cry of Jazz』(1959年)
[2]発表者:サラ・レズニックス(Acconci Studio)
〔The Velvet Underground Rehearses〕(1965年)
〔Andy Warhol’s Uptight #3〕(1966年)

演奏:T. グリフィン
〔EPI at RISD〕(WJAR-TV 1967年4月1日)

フィルム・ファウンデーションの助成を受け、アンソロジー・フィルム・アーカイブズが復元したマスターピース『The Cry of Jazz』。サン・ラ・アーケストラが音楽を担当している。ジョナス・メカスの歌うようなスピーチに続いて、監督のエドワード・ブランドが登壇。上映後、観客とのQ&Aの時間がたっぷり用意された。YouTubeにアップされているのは復元前の版で、キズパラが目立つ。DVD化されているとはいえ、これをみるために渡米したといっても大げさではないほど指折り楽しみにしていたので、美しい仕上がりに感慨もひとしおだった。

最終日のスケジュールに関しては割愛するが、NPO法人ホームムービー・センターを中心に、世界中のホームムービー・フッテージが上映されるなどした。プログラムはシンポジウムのウェブサイトに詳しく、関連資料やリンクなども添えられている。尚、会期中にはヘレン・ヒル賞も発表された。今回受賞したのは、ダニエル・アッシュとジディー・マックという映像作家。二人の女性にはシンポジウムへの参加費用と、スポンサーのコダックから1000ドル相当のフィルムが贈られた。

実は成田の出国手続きのところでタイミング良く、主宰のダン・ストライブルから参加者に向けて、会場付近のレストランガイドやWiFi設定のパスワードなど、必要な情報満載のメールが届いた。司会進行だけでもヘトヘトのはずなのに、ランチタイムにはわざわざ日本からの参加ありがとう、と声もかけてくれた。TシャツやDVDのプレゼントも気が利いているし… たった一人でこのシンポジウムを着実に成長させてきた縁の下の力持ちの存在に、ただただ脱帽。彼が人と人をつなげる才に恵まれていることは良くわかる。参加者を専門家だけに限定しないオープンな雰囲気の中、あらゆる年齢/国籍の学生・映像作家・研究者・蒐集家、そしてジャーナリストが目をキラキラさせて集まっていた。画像はこちらを参照のこと。次回以降、日本からの参加者の増加にも期待したい。(K)

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