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台湾のフィルム・アーカイヴに突撃!

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台湾のフィルム・アーカイヴに突撃!

「干一場試試看」。「まぁとにかくやってみろ=当たって砕けろ」という意味の中国語である。

まったく、私は台湾のフィルム・アーカイヴ「國家電影資料館」に大変失礼なことをした。なぜなら、私は事前にアポも取らず、突然訪ねて行き、「あのー、アーカイヴに興味があるので見せていただいてもいいですか、ネッ?」とカウンター越しにニヤニヤと尋ねたのである。しかし、そんな失礼な日本人に対して、やや不審そうな表情をしていた受付の女性は、私が映画保存に興味を持つ学生だということを知ると、快く見学を承諾してくれた。写真撮影もスタッフが同行すればOKとのこと。壁には政府からの通達がベタベタ張ってあり、ここ「國家電影資料館」は確かに「国家機関」なのだが、部外者に対してずいぶんと敷居が低いことに驚いた(それは、私が学生であり、かつ中国語を多少話せるからかもしれないが)。

受付でパスポートを預け、登録を済ませて中へ。

敷居が低い理由は、その環境のラフさ(?)にあるのかもしれない。日本の代表的アーカイヴである「東京国立近代美術館フィルムセンター」に比べると、「國家電影資料館」は古いビルのワンフロアにあり、一般的な台湾企業のオフィスとそんなに変わらない感じだ。スタッフも普段着姿で、わいわいおしゃべりしながら賑やかに仕事をしている。「映画のお役所」というよりは、「映画ゼミを持つ大学の研究室」のような雰囲気だ。正面入口を入って左には、50席位の小さな上映ホール。右に行けば図書閲覧室とレファレンスカウンター、そしてビデオブースでは台湾の女の子が成瀬の『浮雲』を鑑賞中。書庫も見学させていただいたが、あまり大きくはない。大きくてきれいなビルのフィルムセンターを見慣れている私には、「これが“国家的”なアーカイヴ?」と首をひねりたくなった。しかし、その疑問を覆す大きな驚きが実は隠されていたのである(これは後ほど)。

見学した当日、上映ホールでは『法語影片節』(French-speaking Film Festival)ということで、カナダやセネガル、ブルキナファソなどのフランス語圏の映画が上映されていた。外国人の姿もチラホラ見える。このプログラムは無料で、事前に予約を入れておけば18歳以上の人なら誰でも鑑賞できる。ざっと見学して、受付の女性にお礼を言い資料館を後にする。入口の写真を撮っていたら、奥からフィルム缶を運んでいた男性と目が合った。カメラを持ってウロウロする私にニコッと笑いかける気のいいお兄さん。奥にフィル ムを保存しているのだろうか。後で調べると、保存庫は台北の郊外(台北県樹林市忠信街9号)にあり、フィルム以外にも図書やポスターなども保存されているようだ。次回台湾訪問の際には、ぜひ見学してみたいけれど、今回のように簡単に見学はできないだろう。

「まったく、今回はラッキーだったなぁ」と見学を許可していただいたスタッフに感謝しつつ、資料館を後にした。ビルを出て、さてと。ガイドブックを見ると、もう一つ、台湾には大きな映画施設がある。その名も「台北之家」。家?シネコンのようなものだろうか?と、よくわからぬまま、私は「台北之家」に向かった。

◇ ◇ ◇ ◇

「台北之家」という一見不思議な名前をいぶかしく思いながら、私はタクシーに乗って、台北市のちょうど中心にある中山区に向かった。ここは免税店や高級ホテル、外資系ブランドショップが立ち並ぶオシャレな地域。日本でいえば青山や代官山といった感じか。この中山区に目指す「台北之家」はある。

タクシーを降りて、街路樹とブティックが並ぶ中山北路から一本横道に入ると、閑静な住宅街。ビックリした。白亜の豪邸。決して大きくはないが、白い屋敷に緑の芝生。まるで映画に出てくるようなお屋敷だ。

「台北之家」は旧アメリカ大使公邸だったのだが、台湾とアメリカが1979年に国交を断絶して以来、ずっと廃墟になっていた。しかし、その屋敷を修復し、2002年11月に市民の映画芸術拠点として復活。現在は台北市文化局の委託を受けた台湾映画文化協会が経営している(ちなみに協会理事長は候孝賢監督)。

門を入ると、まずはオープンテラスのカフェが目に入る。それを横目に建物の中へ入ると、正面にミニシアター(88席)の入口。スケジュールを見ると昼から夜中まで、6回に渡り映画を上映しているようだ。最終回はなんと22:30から!仕事が終わって、食事をしてからゆっくりと映画を観ることができるわけ。ちなみに私が訪ねた時には「加掌大(カナダ)映画祭」が開催中で、チケットは会員価格で170元(約590円)だった。チケットはインターネットからも予約できるとのこと。プログラムによっては売り切れも結構あるそうだ。

入口の右手には台湾の大手書店「誠品書店」の分店があり、国内外の映画雑誌からDVD、専門書までズラリ。黒澤明やフェリーニに関する書物、日本の雑誌も置いてある。財布のヒモがゆるむ〜と心配しつつウロウロしていると、「電影史(映画史)」のコーナーに、驚くべき本が。保羅・謝奇・烏塞『電影之死』。パオロ…?あぁ!コレってもしかして、映画保存の世界で有名な(名前しか知りませんが)パオロ・ケルキ・ウザイ(Paolo Cherchi Usai)氏の本じゃないの?しかも中国語訳されている!映画保存の本を読むときに、いつも英語の本しかなくて頭を痛めている私には、急に台湾の人がうらやましくなった。(ちなみに本の訳者は國立台湾芸術大学電影系(映画学部)の陳儒修氏)

案の定、書店で財布はスッカラカンになり、両手で本を抱えて店を出る。向かい側(建物入口の左手)には白をベースにしたオシャレなカフェ。ちょっとインテリな感じの女性が、外国人男性と一緒に楽しげにコーヒーを飲んでいる。しかし、面白いのはカフェの外に、町のどこにでもいる中学生がジャージ姿で頭をつつき合っているのだ。ノート片手にいるところを見ると、どうやら社会科見学かなにかで来ているらしい。

2階への階段には映画のポスターがズラリと貼られ、天井は中国映画の「明星」(スター)たちによって華やかに彩られている。奥にはレトロな雰囲気のバー。私が訪ねたのは昼間だったので様子が伺えなかったが、夜にはソファやカウンターでゆったりとワインなどを飲めるようだ。

要するに、ここは映画を中心にした芸術空間であり、またデートスポットでもあるのだ。書店で買った映画の本を、カフェでカプチーノ片手に読み、夜はスクリーンで映画を楽しんで、バーでワインを飲みながら映画談義に花を咲かせる。そして、中学生がジャージ姿でやって来て、町の映画館ではなかなか上映されないような映画を観て、わいわい学校の宿題を仕上げる場所でも、ある。

過去の上映プログラムを見ると、息を呑むような幅広さであることがわかる。親子で楽しむヨーロッパ映画などのほか、「台湾vs南欧」「キム・キドク+イ・ジェヨン」「台湾vsインド」「鬼(ゴースト)映画」「小津安二郎」などなど…。こんな色々な映画が夜遅くまでゆっくり観られるなんて(しかも飲める!)。

私は約1時間滞在したが、平日昼間にもかかわらず中学生からお年寄りまで、多くの人が「台北之家」に来ていた。映画を観るだけでなく、散歩のついでにフラッと訪れる人も多いようだ。「日常の延長に映画がある」と私は思った。ブラブラ歩いていたら、素敵な洋館があった。中にはいると古今東西様々な映画が上映中で、本があり、語らいを楽しむ場もある。そういった、普段の生活に溶け込んだ「映画の場」が、映画館という場所以外にも台湾にはあるのだ。

これを「羨ましい」と取るか、「あっそう」と取るか。それは各々自由だが、映画が好きで、いろいろな映画を見せてくれる(公開してくれる)場があることをうれしく思う私は、もう一度、「台北之家」を訪れてみたい。前回のフィルム・アーカイヴ「國立台湾電影資料館」と同様、「台北之家」もとにかく、垣根が低かった。「熱烈歓迎」とはいかないまでも、「歓迎大家来」(皆さんどうぞいらしてください)の雰囲気は十分伝わってきた。ちなみに、「台北之家」には大きな門があるが、開館中はその大きな門が気持ちよく開かれている。台湾へ行ったら、おいしい中華料理や足ツボマッサージもいいけれど、ぜひ大きく門を開いた「台北之家」を訪れてみてほしい。

天野園子

メルマガFPS vol.0、vol.1より(2005年)

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