[復元報告]『モダン怪談100,000,000円』発掘復元プロジェクト

小会が発掘した『モダン怪談100,000,000円』(1929)がこのたび東京のラピュタ阿佐ヶ谷で参考上映され、「幻の映画発見」として新聞各紙で報じられた。『モダン怪談100,000,000円』は、今年生誕百年を迎えた喜劇映画の巨匠・斎藤寅次郎監督の現存するもっとも古いナンセンス喜劇で、小会が発掘したのは16mmの短縮版。35mm復元プリントの作成にあたっては《映画の里親》という新たな試みに挑戦する。

発掘の経緯

2004年秋、ある地方の旧家に古いフィルムがあるとの情報を得て、小会メンバーは発掘調査に乗り出した。見つかったのは昭和初期に収集されたという16mmと8mmの小型映画のコレクション。家業の都合で特別にこしらえたという通気性のよい蔵の中で、フィルムはきわめて良好な状態で眠っていた。

1920〜30年代に築かれたコレクションの中身は、日本やアメリカの劇映画の短縮版、アニメーション、ニュース映画、そして一家の運動会や節句などに撮影されたホームムービーなどである。戦前、この旧家のある一帯には娯楽らしい娯楽がほとんどなかった。そんな地域のために一家の有志が共同で映写機や小型映画のフィルムを買いそろえたのがコレクションの始まりだという。当時を知る家族の話では、毎週土曜日の夜は、屋敷の庭にご近所のみんなが集まってささやかな上映会を開くのが恒例の楽しみだったそうである。しかし、戦争が長引くにつれ戦時ムードが地方の暮らしにも影を落とし、小さな上映会はいつしか途絶えてしまった。

1945年終戦。だが、上映会を再開することはかなわなかった。コレクションはGHQによる映画フィルムの取り締まりに遭ったのである。占領日本の民主化をはかるGHQが特に眼を光らせたのは、戦時中の国策映画と封建主義的な時代劇であった。取り締まりの中で、コレクションの一部はカットされ、一部は没収された。没収・処分されたフィルムの中にはマキノ正博監督の失われた名作『浪人街』(1928-29)も含まれていたと思われる(小会調査による)。

その後、残されたコレクションは蔵の中で長い眠りにつく。それから半世紀、小会のアプローチをきっかけにフィルムは再び私たちの前に姿を現した。フィルムはアルミ製のリールに巻かれた状態で1巻ずつ金属缶と紙箱に収められ、20巻ほどのまとまりで木箱に入って、特別に建てられた低温低湿の蔵に保管されていた。紙箱には所有者の名札が貼られ、検閲の痕跡とおぼしき朱筆のチェックが入っている。アルミ・リールの一部はすでに酸化してボロボロの層を形成していたが、フィルム自体は見た目にはほとんど劣化も収縮もしていないようであった。世の中にはわずか十数年前のフィルムでもビネガー臭に耐えられないものもあるというのに、フィルム保存における保管施設・環境の重要性を改めて認識させられる。幸運にも四半世紀の時を生きながらえたフィルムたち。果たして具体的にどのような作品が含まれているのだろうか。

『モダン怪談100,000,000円』の発見

作品の製作時期は、コレクションが築かれた1920年代末から1930年ごろに集中している。劇映画はすべて市販されていた16mmの短縮版であった。日本の劇映画で目についたものは、溝口健二監督『東京行進曲』(1929)、小津安二郎監督『大学は出たけれど』『突貫小僧』(ともに1929)、斎藤寅次郎『石川五右ヱ門の法事』(1929)など。『突貫小僧』や『石川五右ヱ門の法事』は近年パテベビー9.5mm短縮版が東京国立近代美術館フィルムセンターに寄贈され、きちんと復元されて公共の財産となっている。そして、それらの貴重なフィルム群の中に聞いたこともないタイトルの作品があった(不勉強ながら)。2巻もののそのフィルムが入った紙箱には「一億円」と書いたラベルが貼られている。どんな作品かは今の持ち主の方が鮮明に憶えていた。「みんなに受けていたのはチャップリンみたいな喜劇。『一億円』もおかしかった。みんなのお気に入りでした」。

そこまで好評を博し、記憶に残る作品とはどのようなものか。フィルムを借りて東京に帰って調べてみると、どうやら喜劇映画の巨匠・斎藤寅次郎監督の幻の作品にちがいないということがわかった。そしてビューワーでフィルムの内容を調査した結果、それは間違いないことが判明した。見つかったフィルムに刻まれたタイトルは『モダン怪談100,000,000円』。「キネマ旬報」などの記事では漢数字で『壱〇〇、〇〇〇、〇〇〇円』とあるが、封切されたオリジナルの題名は35mm版が現存しないために明らかではない。斎藤寅次郎監督の現存する作品としては、『明けゆく空』の次に古く、斎藤喜劇としてはもっとも古い作品のようである。当時の雑誌によると、この作品は松竹蒲田撮影所が募集された懸賞台本の入選作が映画化されたもの。『モダン怪談100,000,000円』の脚色を手かげたのは、喜劇から人情ものまで幅広く活躍した名脚本家・池田忠雄である。あらすじは、駆け落ちした若いカップルが当時国定忠次の埋蔵金ラッシュで賑わう赤城山に彷徨いこみ、不気味な住人や幽霊たちと渡り合うというもの。若いカップルに斎藤達雄と松井潤子、娘の両親が坂本武と吉川満子といった一般にも小津映画でおなじみの面々が出演している。とりわけ斎藤達雄の長身二枚目でヤワなキャラクターは見ものである。小倉繁演じる国定忠次(ただし幽霊)は、当時一世を風靡した『忠次旅日記』(1927)の大河内傳次郎の巧みなモノマネ。キッと見開いた眼光の鋭さと重心の低さは大河内を彷彿させる。さらに田中眞澄氏の指摘によると、チョイ役だが笠智衆らしき人物が写っているそうである。小会メンバーは誰も気づかなかった。これを読んでいる方々もいちどぜひご覧になっていただいて検証してほしいところである。

奇しくも2005年は斎藤寅次郎監督の生誕百周年である。この作品の発見・復元・公開を通じて、映画保存への関心を広く呼びかけることはできないか。このようにして小会の新たなプロジェクトが始動した。もちろん、長期的には今回のコレクションすべてを詳細に調査し、現存する作品についても1コマずつ検証して《現存最長版》に向けて努力し、ニュース映画やホームムービーについても地域の史料としての観点から活用と保存の方法を持ち主の方や社会に提案していくべきであるが、そうは言っても現在の小会では力不足である。映画保存全体および小会の地力をつけるためにも、まずは映画保存を広く知ってもらう必要がある。そう考えた結果、『モダン怪談100,000,000円』の復元を市民の力で実現するという新たな試みに踏み切る決断をした。市民の、市民による、市民のための映画保存。それが《映画の里親》である。

映画の里親

《映画の里親》とは、簡単に言えば、フィルムの復元(今回の場合は35mmブローアップ版の作成)にかかる費用を広く一般から募り、その方をその作品の《里親》として認定する新しい制度である。

里親の名前は、復元版の冒頭にクレジットされる。そうすることで、復元されたフィルムを観る人たちは目の前の作品が里親の存在なくしてはよみがえらなかったという事実を知り、ひいては映画保存というものを認知することになる。一般の観客や映画ファンからは見えにくい映画保存への地道な努力の存在を、《映画の里親》のクレジットは見えるものにしてくれるのだ。もちろん、この制度が非営利目的のフィルム復元のためのすぐれた資金調達法となることへの期待はある。だが最も重要なのは《映画の里親》という試みを通じて、これまで映画保存を知らなかったひとりでも多くの人びとに、映画保存のことを理解してもらうことである。

2005年6月12日、ラピュタ阿佐ヶ谷での斎藤寅次郎特集における『モダン怪談100,000,000円』のビデオ版参考上映は、《里親》の告知と募集が大きな目的のひとつであった。チラシの配布と説明をさせていただいたところ、さっそく、当日会場に来られたある方から《里親》として復元費用の全額を出したいという申し出があった!それも、斎藤寅次郎監督と切っても切れない深いゆかりがある方々(複数)である。斎藤監督も天国からきっと驚いているにちがいない。これはもう願ってもない話ということで、今回はこちらの方々に《里親》をお願いすることと決めた。さてどなたかは復元プリントの上映までお楽しみに。実はほかにも何名かの有志から費用の一部を負担してくださるというありがたいお話をいただいたのだが、今回は《里親》と決まった方々のお名前をご覧になっていただいて納得していただくしかありません。次回以降(もう具体的な候補が挙がっています)、どうぞよろしくお願いいたします。

35mm版の作成は、小会が何かとお世話になっている育映社で目下着々と進められている。上映についても水面下でプランを練っているところである。決まり次第こちらで報告する。

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