ポルデノーネ無声映画祭と『海浜の女王』

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ポルデノーネ無声映画祭と『海浜の女王』

2009年の映画の里親第5回作品『黒手組助六』[マーヴェルグラフ版]に引き続き、2010年のポルデノーネ無声映画祭に第2回作品『海浜の女王』[松竹グラフ版]が出品されました。東京国立近代美術館フィルムセンター(NFC)映画室長のとちぎあきら氏より、ポルデノーネで牛原虚彦が特集されるかもしれない、という信じられないお話を伺ったのは、2010年2月の恵比寿映像祭の会場でした。小会がかつてNFCに寄贈したこの作品のネガから、今回の映画祭を前に英語字幕付プリントが作成され、そしてNFCから出品される14本の日本映画を上映する特集〈松竹の三巨匠〉の1本として… 上映が現実のものとなったのでした。

上映が決まるか決まらないかの頃に、ミュージアム・アーカイブズを研究されている渡辺美喜さんより、ある興味深い記事の存在を教わりました。それは東京国立近代美術館の発行する『現代の眼』(25号 1956.12 p7)に掲載された、牛原虚彦による国際フィルムアーカイブ連盟(FIAF)総会参加報告。監督としての牛原虚彦の国際性についてはよく知られていますが、NFCの前身であるフィルム・ライブラリーの運営委員として、なんとFIAF総会にも参加していたとは、恥ずかしながら小会はこのときまでまったく把握していませんでした。

「欧州映画日記から」と題して、牛原は、ユーゴスラビア(現クロアチア)のドゥブロヴニクで開催された第12回FIAF総会にて「日本映画の蒐集が至難な状態にありフィルム・ライブラリイの経済状態も豊かでない」ことを報告し、ヨーロッパにおける日本映画の人気を目の当りにして感激しつつも、「現状を顧みて、心中顔あからむ思ひに責め付けられた」と書き残しています。

『海浜の女王』は、後に牛原が教鞭をとった日本大学藝術学部の当時の「教え子」であった諸先生方のご理解のもと、同大学の現像場で蘇った復元版です。牛原も、公開から83年後にヨーロッパでこの映画が上映されることになろうとは、想像すらしなかったでしょう。

上映に生演奏を添えてくださったのは、会員でもある柳下美恵さんでした。ポルデノーネでの柳下さんの演奏については、様々なところで絶賛の声が上がっていますが、さいごに、映画祭の創設者の一人でもあるパオロ・ケルキ・ウザイ氏の感想を掲載いたします。(K)

ポルデノーネ無声映画祭の常連客を感動させるには大変な労力を要しますが、柳下美恵さんの生演奏付で上映されたこの愛すべき断片『海浜の女王』に、観客はうっとり酔いしれ、劇場を去る彼らの表情はほころんでいました。柳下さんの決して出しゃばらない、しかし自信に満ちた演奏は、無声映画の伴奏の本来あるべき理想に達していたと思います。それはつまり、映画に対する敬意あふれる伴奏が、いつのまにか映画と観客の心を通じ合わせる媒介役を果たしていたということです。そのような小さな奇跡は、滅多に起り得ることではありません。

パオロ・ケルキ・ウザイ(ポルデノーネ無声映画祭 理事)

Language: English

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