2011年10月15日(土)、世界14カ国68会場(内、国内は12会場)で「第9回ホームムービーの日(HMD)」が開催されました(一部の会場は日程をずらして開催)。貴重なフィルムをご提供くださった皆さま、ご来場くださった皆さまに、関係者一同心より感謝いたします。ありがとうございました。
計6名の世話人(弘前、墨田、小平、犬山、谷根千、京都)が来年初めて開催する方に向けてアドバイスを寄せてくれましたので、報告の途中にご紹介いたします。第9回ホームムービーの日、国内ではこのほか神戸、大阪、滋賀、長野、品川、仙台で開催されました。
国内のHMD会場のアンケート結果(8会場より回収)によりますと、各会場(キャパ平均53)の集客は平均29、上映数は5〜20本、開催費用の平均額は約22,000円(1,500円から35,000円までの開きがありました)、スタッフ数は4〜13名。来場者が40名を超えた会場が3会場ありました。
今年もメディア掲載は順調で、犬山・神戸・京都などが大きく取り上げられました。日頃からの広報に、この記念日のPR映像(英語字幕付版)を引き続き使用中ですが、今年は冒頭1本に東北のフィルムを上映することになり、東北篇PR映像も急遽制作することに。そして来年の第10回に向けて、12月の世話人会議のテーマは「広報」を取り上げます。この報告を読んでくださっている方は、ぜひHMDをご家庭、ご職場、そしてご近所に広めてください。どうぞよろしくお願いします。
以前から行われていた会場での機材展示は、今年も京都や谷根千、品川などで好評だったようです。各地様々な事情を調整すると、必ずしもHMD当日には開催できないこともありますが、世界同時開催こそHMDの醍醐味ですから、関西3会場で開催日がずれたのは少々残念でした。会場によってはテーマを決めたり、あるいは《地域性》に深くこだわるところもありますが、基本的には内容を問わずに上映するのがHMDの趣旨です。これまでも都内で福島県いわき市の50年代や津軽三味線をBGMにした弘前城の桜祭りのフィルムが見つかったり、今年開催地となった犬山が登場したり、逆に名古屋の会場で、元旦に車を飛ばして都内に向かうロードムービー風の作品が上映されたり… すべての映像が地域に縛られたり行政区で分類できたりするものではないことを実感させられてきました。世話人どうしのフィルムの貸し借りも続いています(今年は例えば犬山会場が仙台会場からフィルムを借りて、東北に思いを馳せました)。
さて、課題は多々ありますが、ここでは以下の3つに絞ってみます。
・収集保存につながるか
日本のHMDが海外のそれと大きく異なるのは、世話人が必ずしもフィルムアーキビストではない点、つまり映画保存とHMDとが直結していないのが特徴で、公共の収集保存機関による保存に結実しているのは今のところ仙台会場のみ。しかし、収蔵環境が整っていないのに「捨てられてしまうのは忍びない」とうだけで集めるわけにもいきません。FPSも会員による個人的な収集行為は活動ルールの中で禁じています。一方で、フィルムアーキビストが参加していないのに12会場もある、という事実がCHM(米国のHMD本部)を驚かせています。「映画フィルム」に向かうこの情熱、いったいどこからくるのでしょうか。収集はしないまでも、貴重なフィルムの所在確認は地域ごとに行うべき重要な仕事の一つには違いありません。世話人に古いフィルムに関する情報が入りやすいことから、寄贈仲介が可能になり、救済につながった事例もあります。
・デジタル化は長期保存の手段ではない
各地で収集保存/映像アーカイブという名のもとに実施されているプロジェクトが、実は単なるテレシネ(デジタル化)に過ぎない、ということはよくあります。海外の地域映像アーカイブとはその点で、どうも様子が違うのです。実は、小会の文京区委託事業(文京映像史料館)にも、行政側の意向との齟齬があります。そういった問題は、「地域で残そう映像史料」というシリーズ・イベントでも訴えてきました。もちろんデジタル化はアクセス可能性を格段に向上させますし、古くて劣化した素材など、もはや映写機材にはかけられず、デジタル化することでしかコンテンツを確認できないこともあります。貴重な映像を可視化することで保存の大切さを訴える、という戦略も考えられるでしょう。とはいえ、フィルムのエッジコードやスプライス等の情報はデジタル化できませんし、デジタル化によってごっそり失われてしまうフィルム上映の魅力や奥深さは、何とも言葉では形容し難いものです。
・予算繰り
本部CHMにはスポンサーが何社かありますが(コダックなど映像関連企業や映画フィルム現像所など)、集めているのはごく小額です。方や、国内のHMD会場でカンパを募ったところは平均14,000円も集めています。これは参加費としてお一人500円程度を徴収するに等しい額で、どうにか開催費用はまかなえているようです。資金繰りもまた、HMD世話人の腕の見せ所。お金がない、と愚痴を言いはじめればキリがありませんので、あれこれ工夫して、助成金への応募やスポンサー探しを行動に移しましょう。また、行政や大学、地元の収集保存機関との連携にもぜひ取り組んでいただきたいものです。ただし、お金を集めればいいというものでもありません。無理のない規模で工夫して開催している会場も多くあります。
2012年は10年目という節目を迎えます。これまで会場を増やすことにはあまり積極的ではありませんでしたが、来年は増えるといいなと思っています。HMD自体が認知されれば、資金繰りにもつながるかもしれません。しかしHMDという記念日のもっとも輝かしい点は、「世話人」の誕生とそのネットワークにあります。つまり会場数や来場者、あるいはスタッフの数が増えることより、世話人が一人生まれることにずっと大きな意義があるのです。なにしろHMDの世話人は、その地域の潜在的なフィルムアーキビストなのですから。ほとんどの世話人は、ブログを利用して情報を発信していますし、TwitterやFacebookなどのSNSも活用しています(HMD開始当初は考えもしないことでした)。ですので、FPSによる「とりまとめ」の必要はほとんどなくなっています(それどころか、各地の手間を増やしているだけです)。FPSの関与の仕方は、近々考え直す必要がありそうです。
各地の個性は様々ですが、どんな感動的なエピソードにも「あ、似たようなことを数年前にも聞いたな」とか「同じテーマのフィルムが過去の会場にもあったな」などと、何かしら思い当たる節が… これが9年の蓄積というものでしょうか。しかし過去のHMD資料を捲っていると、フィルムの持ち主の方からいただいた心温まるお礼状や、素敵なデザインのチラシなどにはっとさせられることもあります(忘れていることも、ずいぶん多いのです)。フィルムの検査や機材のメンテナンスなど、同じことを淡々と繰り返すこともまさに継続力ですが、マンネリ化しないように、新たな展開を目指していきたいと思います。
第10回ホームムービーの日、国内ではユネスコ世界視聴覚遺産の日と連携して開催する予定です。地域や家庭に埋もれた映像遺産を救うために、来年こそあなたも開催してみませんか? 今年参加者だったあなたが、来年の世話人です。そう、そこのあなたです!
尚、過去9年分の開催資料は小会事務所にて閲覧可能です。興味をお持ちの方はご一報ください。各会場から集まった《今年の一本》についてはこちら、各地から届いた当日の画像はこちらです。
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