ホームムービーが帰ってきた

——「ホームムービーデイ東京2004」を終えて

天野園子(映画保存研究会スティッキーフィルムズ)

最近は、何もかもがデジタル、デジタル、デジタル!!な世の中。音楽やカメラはもちろん、犯罪だって炊事だって、何もかもがデジタルという前置詞なしには語れない。もちろん、映画も。

なのに、今さらアナログな「ホームムービー」とは。撮影から配給、上映までがデジタルで行われている時代の今、なぜ8ミリと16ミリフィルムをわざわざ引っ張りだしてくるのだろうか?

いやいや、時代錯誤と片づけないでほしい。実は、フィルムが重要な意味を持つことが、映画のある分野においては、まだまだあるのだ。

映画には、さまざまな種類がある。私たちが普段目にする映画はほとんどが劇映画で、映画は映画館で見るものと相場が決まっている。予想を裏切るストーリーと魅力的な役者、大型のカメラと明るい照明。われわれはいくらかのチケット代を支払えば、2時間から3時間の間、非日常に連れて行ってくれる映画が大好きだ。しかし、いつも心のどこかでこうも思っている。「スクリーンの向こう側には、手は届かない」。

しかし、ほんの30年前に、映画は我々の手の届くところに確かにあった。スクリーンですら、家のふすまや壁に架かっていて、小さいけれど親密な音を奏でるカメラを回して世界を見つめる人は結構いたのだ。

それが「ホームムービー」である。1950年から1970年代にかけて爆発的に流行したホームムービーは、家族や恋人、思い出の地や自分の住む町を8ミリあるいは16ミリで記録し、燦々ときらめくスターが登場するような、映画館で見る華やかな映画ではないけれど、確かに私たちの生活の中で、「映画」のひとつとして存在していた。

だが、1970年代末頃を境に、ホームムービーは生活の表舞台から姿を消してゆく。映画産業の斜陽化とともに、スクリーンよりもテレビのブラウン管に向き合う人口が増えたことが伏線となり、気軽に誰でも撮影できるビデオカメラの登場が、ホームムービー激減の決定的な原因となった。フィルムはビデオテープにとって代わられ、いささか手間のかかる8ミリや16ミリのカメラや映写機は、思い出のフィルムとともに押入や蔵の中で沈黙を続けていることだろう。
そんなホームムービーをもう一度見て、フィルム(映画)が私たちの生活の一部であったことを問い直したい。そんな思いから「ホームムービーデイ」は始まった。

「ホームムービーデイ」は2002年にアメリカのAMIA(Association of Moving Image Archivists)と呼ばれる映像アーキヴィスト団体の有志グループが立ち上げたイベントで、世界中の都市で同じ日(毎年8月の第二土曜日に設定)に家庭に眠るホームムービーを発掘・上映するという、ローカルだがグローバルな催しである。
 日本ではAMIA会員である映画保存研究会スティッキーフィルムズが、愛知県豊橋市と福岡県での第1回上映会を皮切りに、2003年から参加を始めた。

「映画保存研究会スティッキーフィルムズ」は、2002年に京都で誕生した映画フィルムの保存と修復を目指す団体で、現在の会員数は16名である。会員の内訳は、主に学生や社会人が占めており、大学で映画保存を学ぶ者、失われたとされる幻のフィルムを探す者、実際にフィルム修復をアメリカで学んだ者など、それぞれが各分野で、映画フィルムを保存するために日々奮闘中だ。
 今までの具体的な活動としては、『丹下左膳余話 百万両の壺』(山中貞雄監督、1935年)の幻のチャンバラ場面部分のフィルム発掘や、『特急三百哩』(三枝源次郎監督、1928年)のインスペクション(調査)などが挙げられ、定期的な勉強会やミーティングを通じて、映画保存に関するレクチャーや情報交換を行っている。

「ホームムービーデイ」は、その活動の一環となり、来年以降も「ホームムービーの日」と改称して上映会を実施する予定だ。

さて、話をホームムービーデイに戻す。

2003年に日本での初開催を実現したわれわれは、2004年、さらに開催都市を増やし、東京、名古屋、大阪の3都市で上映会を実施した(参加全体では世界45都市で実施)。そこで、今回は東京での上映を紹介したいと思う。2004年8月13日土曜日、東京都文京区『不忍通りふれあい館』。猛暑の名残がアスファルトの路上に残るような暑い夜に、ホームムービーデイ東京は実施された。

集められたフィルムは合計8本。6本が8ミリ、2本が16ミリで、イギリスの家庭を映したフィルムや地元在住のアマチュアアニメ作家が作った短編アニメ,昭和40年代に撮影された東京都内を走る路面電車のフィルム,戦前の繊維商工会が慰安旅行で映したフィルムなどバリエーションはさまざま。

ホームムービーの上映会という地味な趣向から、果たして観客は集まるのか…という不安が開催当日まで残ったが、ありがたいことに用意した席がほぼ埋まるという盛況ぶりであった。また、統一のないプログラムにもかかわらず、観客の皆さんは手作りアニメのキャラクターに笑い、神田や日本橋を走っていた都電や町の様子を懐かしみ、「新鮮だった」「面白かった」との感想を残してくださり、初めての開催に不安を感じていた主催者にと って、これほど嬉しい反応はなかった。最近流行の昭和レトロ趣味も影響しているのだろうか、古き映像と、ビデオ画像とは違うフィルムの持つ質感に新しさを感じていただけたようだった。

上映会を通じて改めて思ったことは、まず、古いホームムービーはノスタルジアな思いを馳せる対象であると同時に、何よりも貴重な映像史料であるということだ。

例えば、当日の上映フィルムには、まさに今、上映を行っている文京区の様子を撮影した昭和30年代の作品があり、来場者のほとんどを占めていた地元の方々は、慣れ親しんだ土地の新たな姿を見て懐かしみ、そして驚いていた。その場にいながら、その場の昔の姿を目の当たりにする。まるでタイムスリップしたかのような錯覚。「古いフィルムこそタイムマシンそのものである」と言ったのは、どこのフィルム・アーキヴィストだったか。

また、古い映像の中には、今では見られないような当時の日本の様子(人々のファッションや町の看板、家の構造など)も細かく見ることができ、それだけでも十分に歴史的価値を持つものであろう。もちろん、撮影当時、撮影者にそのような意図がないとしても、
数十年後には立派な映像資料となりうるのだ。

ホームムービーには、ソフトとして見ると以上のような意味を持っている。では、ハードとして見たときには、どのような意味を持つのだろうか。まず、最初に申し上げれば「映画フィルムを後世に伝えるために残そう」とするとき、今流行のデジタル技術はあまり役に立つものではない。フィルムはフィルムで残すしかない。映画保存に限定すれば、意外にも現状のデジタル技術は耐久性と汎用性において、フィルムの持つ能力に追いついていないのだ。

フィルムは1889年に発明されてから100年余りの間、なんだかんだと問題を抱えながらも使われ・保たれてきた(可燃性/不燃性や自然分解、収縮・歪みなど、フィルム特有のさまざまな問題はあるが、保存環境が整えってさえいればフィルムは何年でも保つことができる)。また、スクリーンに投影したときの画質の良さは現在のデジタル技術が及ぶレベルではなく、物質として見ても、ビデオテープやDVDの耐久性に確固とした証明データがないため、堅牢性ではフィルムの方が優れているとされている。

しかも、ここが大きなポイントなのだが、現在のデジタル技術の進歩ペースから考えると、現在盛んに使われているDVDも10年後には使われなくなる可能性だってあり得ると考えられないだろうか(ビデオのベータマックスやLD=レーザーディスクの哀れな末路!)。フォーマットが変わればもちろんハードも変わる。しかし、フィルムだったら、どんなにハードが変わっても上映(再生)することは可能である。

「デジタルは万能」という多くの人々が抱えている現代神話は、映画保存の世界においてはまだ一つの手段でしかないのだ。

もちろん、映画保存や修復の世界でもデジタル技術は応用され始めている。日本を代表する映像アーカイヴの東京国立近代美術館フィルムセンターは、近年にフィルムのデジタル修復を発表しており(2002〜03年に行われた『斬人斬馬剣』『和製喧嘩友達』の復元など)、現在のフィルムアーカイヴでは、フィルムはオリジナル素材として残し、テレシネ変換したデジタル素材を閲覧など応用に使用するというのが一般的な見解である。

とはいえ、国やアーカイヴレベルで保存対象となるフィルムは、あくまで社会的に有名な作品が優先されるため、ホームムービーのように一介の市民が撮ったフィルムは、管理に気を配らない限り、朽ちていく一方なのだ。

私たちの生活を映し、私たちの記憶を再生できる、私たちに最も近かったはずのホームムービーが、ただ無関心の元に消えていくのを、なんとか防ぎたい。ならば、1年に1度は押入や蔵の中から出し、映写機にかけて光を当ててみようではないか。それが「ホームムービーデイ」なのだ。

まずは、あなたの家の押入や納戸の奥に、古いフィルムのリールが残っていないか思い出してほしい。湿気やホコリでボロボロになっていても、意外にフィルムは丈夫なものだ。いくらかの補修を施せば、懐かしい思い出をよみがえらせることができる。

古いセピア色の写真が詰まったアルバムをめくるように、どうぞ一緒にホームムービーを。その小さなスクリーンは、映画館で見る大きなスクリーンよりも、ずっと親密で暖かな映画体験をあなたに届けてくれることであろう。

(【映画論叢10号】より転載)

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