みたいのは、あなたのフィルム

【名古屋シネマテーク通信 2005年11月】

「ホームムービーの日」名古屋会場の報告

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画像:会場となった「橦木倶楽部」(名古屋市東区橦木町)は市民の力で修繕、維持されている大正時代の建築物です。

毎年8月の第2土曜を家庭に眠るフィルムの記念日と定め、世界中で同時に上映会を開こうという試み「ホームムービーの日(HOME MOVIE DAY=HMD)」。思えば3年前、手探りで開催した豊橋会場では映写機が次々故障し、お客さまに鉛筆を使ってフィルムを巻き取っていただいたのでした。 昨年は夕刊で紹介され、上映作品の幅がぐんと広がりました。今年は会場を「橦木倶楽部」に、建築と映画の保存が共鳴することになり、名古屋のほかに国内の 3会場(東京-京都-山中湖)を含む世界7カ国42都市がHMDに参加しました。名古屋会場に集まったお客さまは25名。お茶、スイカ、お漬物を用意し、 ビール、ラムネ、おせんべい、採れたて夏野菜、オリジナル陶器などを販売した上、手作りパン屋さんも出店と、3年目にしていよいよ祭りめいてきました。建物の雰囲気がそうさせるのか、ゴミになるペットボトルなどは排除し、暑さ対策に扇風機5台と団扇も多数用意しました。ちょっと昔を振り返ると、私たちの生 活の中には小粋な品が溢れていたものです。8mmフィルムもその一つ。日本はちょうどお盆の時期ですが、アンケートには「家族と祖母のお墓参りに行った後 の上映会で、私が生まれる前の家族の歴史にふれ、あたたまった気持ちが、HMDでさらにあたたかくなり、とても良い一日になりました」という感想も。こん な風に楽しんでいただけるなんて、主催者冥利につきるというものです。上映は3年連続参加の古書店店主による、私的で詩的な作品で幕を開け、途中に古典映 画のおまけ上映なども挟みつつ、幸い大きなトラブルもなく進んでいきました。

開催後には毎年恒例の「ベスト・ホームムービー」を2作選 ばせていただきました。1作目「松野家の出来事」は、お寺の境内で開催される幼稚園の入 園式からスタート。小っちゃな子らが、まるで赤ちゃんであることを終える儀式か何かのように板張りの階段よじ登っていきます。現在「松野家」の息子さんは 東京、娘さんはNYにお住まいだそうで、そういったお話を伺うと他人の成長記録とは思えなくなるから不思議です。2本目は実験映画風の「AQUA」。 「今っぽい!クラブでも流せそうな感じで、頭の中で音楽がなってた」というお客さまの反応は鋭い!作者の弁によると、この作品はエドガー・フローゼ(タン ジェリン・ドリーム)の同名アルバムを意識して制作されたとか。撮影場所は自宅のキッチンや鶴舞公園なのですから、これぞ立派な地域密着型ホームムービーであり、かつ真夏にもぴったりのテーマなのでした。

そのほか印象的だったのは「ラブラブ結婚式」。フィルムの中では駅のホームで胴上げ されているかつての新郎曰く「車内で立ち上がってお辞儀をしな かったといって、後でえらい怒られたんだ」。確かに照れた新郎、座席に座って煙草をふかしています。新幹線が名古屋駅を発つと見送りの人々に安堵の表情が 広がり、撮影者の友を思う気持ちもしっかり記録されていることが、なんとも感動的なフィルムでした。

さて、主催者としてはHMDを全国 各地に広め、地域のフィルムは地域で守るという意識を高めつつ、いつの日か小型映画を収集する映像アーカイヴを 各地に創設できないものかと夢を描いています。プライベートな映像を出品する事への抵抗もあるかとは思いますが、HMDは個人でも祝えるのですから、フィ ルムの蔵出し、状態検査、映写機整備の日としても格好のチャンスではないでしょうか。今この報告を読んでいるあなたの実家の押し入れにも、長年忘れていた 映像遺産が眠っているかもしれません。同じ日に世界中で上映会が開催されているという不思議な連帯を感じつつ、一人でひっそりと、あるいはご家族や旧知の 友と、はたまた地元の会場で、HMDを祝いませんか?来年は8月12日(土)。小会は、この日をきかっけに世界各地で1本でも多くのフィルムに光があてら れることを願ってやみません。(S・K)

ホームムービーの日2004 名古屋報告
HMD名古屋世話人 田村郷枝

 「毎年8月の第2土曜日はホームムービーの日」。ホーム ムービーの日(HMD)は、映像ア−キヴィスト協会(AMIA)が企画し、昨年からアメリカを中心にはじまった家庭に眠るフィルムのための祭典です。今年は2004年8月14日に、世界6カ国44都市で同時開催されました。日本では映画保存研究会StickyFilms(現・映画保存協会)が主催し、名古屋の他に東京、大阪での開催が実現しました。名古屋は幸運にも朝日新聞の夕刊記事で紹介されたことが契機となって、多種多様なフィルムが集まりました。会場はナディアパーク8F、アートピアビデオルームをお借りし、定員数の関係から上映時間を第一部(16:30開演)、第二部(18:45開演)に分けて、第一部は事前登録されたフィルムを中心に、第二部は当日お持ち込みいただいたフィルムを対象に上映しました。

第一部:昨年のベスト・ホームムービーに選ばれた現役8ミリ作家三木淑生さん—某有名TV番組の映像にフィルム特有の傷を施した実験的作品「我らバビロン川のほとりに坐り」(2001)、ご家族でご来場の早稲田OB加藤周三さん—80年代を彷佛とさせるBGM、服装、学生達のはつらつとした「夏合宿の記録」(1980)、四日市在住の和波茂彦さん—グッとくる手書きの地図に始まり、消え行く瀬戸電を暖かなまなざしで追った「さよならお堀電車」(1976)、HMD常連の現役8ミリ作家金森秦樹さん—ロマン座の終焉を定点で撮った「写蔭」(1995)、ご夫婦でご参加の梅木秀明さん—画面に合わせた生の解説付き、紙芝居風アニメーション「ありときのこ」「おいもはこうしてほられました」(1975)。途中ステレオ録音の音が半分出なくなるという不手際もありましたが、全体を通して和んだ雰囲気の上映となりました。

第二部:名古屋を拠点に活動している芸術家栗本百合子さん—芸大時代の栗本さんの魅力によろめいてしまう、JAZZの似合うモノクロフィルム「冬の光景」(1970)、キャンパス内での作品が収録された「アウトライン」(1971)、映写担当伊藤重次さん—ご自身の熱いナレーション入り「阿波踊り」(1970)、同じく映写担当土屋珍男子さん—8月にはたまらない清涼感と緊迫感のある「挑む 冬の登山」(1977)、立松由美子さん—被写体である幼き我との対面を果たしたお父様の残されたフィルム。後半は年代物のダブル用映写機に変えて、第1部でも登場の金森秦樹さん—学生時分の東京・下北沢は呑み屋での様子を、中古8ミリカメラを買って初めて写した「第一撮影作品」(1977)、スタッフとして参加のイアンさんのお父上ジョン・ランバートさん撮影—動物園の動物達や、夫婦で散歩する情景、遊びに興じる様子などをとらえた「夏休み」(1966)、宣伝にご協力いただいた名古屋シネマテークの仁藤由美さん—某お蔵の中から発見された、名古屋の広小路を走る市電などの情景を挟み、河畔に憂いの美女が度々登場するフランス映画を意識した?フィルム。今回可能となったダブルの上映は、制作年代の幅を感じる貴重な機会となりました。

 総計15本の上映時間は30分程の休憩を挟み、3時間にも及びましたが、眠りから醒めたフィルム達が放つ輝きに、時の経つのも忘れてしまったのは私だけではないと思います。闇の中、カタカタっという映写機の音と共に写し出される映像に、次は何が出てくるのかと心がときめきます。こうした会場での一体感は8ミリなど小型フィルムならではの楽しさではないでしょうか。今年のベスト・ホームムービーはアンケートの結果等を踏まえて、和波さんの「さよならお堀電車」に決定しました。今後の大切な資料として、AMIA会議にも提出されることとなります。私たちはHMDを年に一度の大切な上映の機会、活動発表の場ととらえています。今後も継続させることによって沢山のフィルム達を掘り起こし、上映後も大切に保存してもらうことで、後世に残していきたいと考えています。今は知名度も低いHMDですが、各地で恒例行事として徐々に広げていけたらと思っています。興味のある方は、来年是非会場にいらしてください。

 最後に、多くの方々の暖かいご協力に、この場をお借りして心より感謝申し上げます。

(名古屋シネマテーク通信より)

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