TOP > プロジェクト > ゲストレクチャー Vol.1 映画フィルムの基礎知識
2005年9月4日、タイミングマンとして数々の映像制作に携わってきたフィルム技術者の中村暢夫氏を講師にお招きし、「映画フィルムの基礎知識」と題した公開レクチャーを行いました。そのレポートをお届けします。
講師にお迎えした中村さんは、東京国立近代美術館フィルムセンターで技能補佐員をされていた頃、毎年夏に行われる「博物館実習」のたびに学生に映画フィルムの基礎知識を教えていらっしゃいました。 今回のレクチャーでは、前半はその内容をそのままお話いただきました。まずは原版やポジなど、様々なフィルムの種類、ベース素材の違いや劣化の特徴、さらに現像作業のごく基本的な流れについて。 質疑応答の時間に飲み物を配り、リラックスしたところで、後半は現像所での失敗談なども伺いました。
数々のエピソードから垣間見えるのは、体力的にも精神的に決して楽ではない現像所の日常です。フィルムだけでなく、撮影監督やスタッフに対しても常に真剣勝負。ミスの許されない世界で培われる職人魂をひしと感じました。
勉強会Vol.1の「IMAGICA見学会」では、残念ながらタイミング・セクションの見学はできませんでした。もし見学できていれば、中村さんのお話をより深く理解できたのではないかと思います。私は一度だけ、米国議会図書館の旧映画放送録音物部(オハイオ州デイトン)にて、アナライザーを使わせてもらったことがあります。確かに、色のRGB値を変えるだけならボタン一つで済む簡単な作業です。ところが、「自分が一番いいと感じるところに設定してみて」といわれると、途端に自信がなくなってしまうのです。1枚の画像を処理するだけではなく、映画の場合、次のフレームへと画が連なっているわけですから、全体の流れも考える必要があります。今日と明日の感覚だって違うでしょうし、撮影監督が狙った画、監督の頭の中にあるイメージ、そして自分がいいと思うのはいったい……考えれば考えるほど混乱します。 しかも、見ているのはあくまでモニタ上の画像。実際にフィルムに焼き付けられたときに、どのような変化が起こるのか……?しかし、「納期」までの時間に余裕のないプロには、悩んでいる暇なんてありません。
映画フィルムを失うことは、その存在を支える技術の蓄積をも失うということです。私たちはこれからも、フィルム技術者の方の言葉に耳を傾けつつ、映画保存活動に関わっていきたいと思います。(K)
【参加者の感想より】
特に面白かったのが、中村さんの現役生活の中で数限りなく起こったフィルムにまつわる失敗談や大事件。1本のフィルムをめぐって現像所を飛び出し、全国各地を走り回ったそれらの出来事は、そのままNHKの「プロジェクトX」です(どうしてNHKたる放送局がフィルム現像者の話題を取り上げないのか、不思議…)。 「失敗したってチャンスだよ!それをきっかけにスタッフに会いに行って、お酒飲んで仲良くなれるんだから」と笑いながらおっしゃる中村さんの笑顔に、これぞ職人魂だ!とウットリと見惚れてしまいました。 現在のデジタル技術をもってしても、フィルムが出す色のよさにはかなわないと聞きます。世の中にある、私たちが見得る幾通りの色を再現する仕事に情熱と誇りを感じた勉強会となりました。
ゲストをお招きしてお話をうかがうというイベントは初の試みで、ドギマギしながらの開催でした。会場の谷中カフェの皆さまにもたいへんお世話になりました。会場の評判はとても良かったのですが、定員20名のところ、参加者は18名(会員8名、一般10名)にも達しましたから、次回からはもっと広い会場を探す必要が出てきました。最後に、貴重なエピソードの数々を披露してくださった講師の中村さんに心から感謝いたします。ありがとうございました。
皆さまもFPSの勉強会で扱ってほしいテーマなど、ご要望がありましたら、ぜひ info@filmpres.orgまで、お気軽にお寄せください。
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