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過去(2005〜2006年頃)にメルマガFPSの「映画保存資料室だより」に掲載した書評をご紹介します。
Penelope Houston著 176ページ BFI 1994年5月 絶版
1930年代から1990年初頭までのフィルムアーカイブの歴史がつづられている。FIAF(国際フィルムアーカイブ連盟)の果たした役割や、各国を代表する映像アーキビスト(キーパー)たちの横顔、保存方針や復元技術の変遷など、基本的な流れを教えてくれる入門書。日本からは川喜多かしこ氏も登場。同タイトルの映画保存入門ビデオもあり、そちらもおすすめ。若干古いものの、同じくフィルムアーカイブの歴史に関する書籍に「Nitrate Won’t Wait: A History of Film Preservation in the United States」 がある。こちらはまだ絶版ではないらしいけれど、いずれも日本語になっていないのが残念。
http://d.hatena.ne.jp/filmpres/01090001
C.W. ツェーラム著 月尾嘉男訳 345頁 フィルムアート社 1977年
映画誕生以前から映画が産業として成立するところまでの歴史をさまざまな方向から解説。映画が今の形にまとまるまでに、これほど様々な発明家と発明品が存在したのか、ということにまず驚く。そしてその一つ一つの図版や写真が豊富で、それを見ながら、どう動くのか、どんなふうに見えるのか、と想像するだけでも楽しい1冊。
http://d.hatena.ne.jp/filmpres/00390001
44頁 Louvy corporation 2005年
某現像所の若き技術者による映画フィルムの研究書です。映画の台本のような装丁は可愛いのですが、読み応えある内容になっている。現像所に就職でもしない限りとても理解できそうにない難解な技術情報が丁寧に解説されているので、これを読めば文系のあなたにもついにガンマ曲線が理解できるかも?
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http://d.hatena.ne.jp/filmpres/01840007
Paolo Cherchi Usai著 212頁 BFI 2000年
題名の通り、対象はサイレント映画に限定されている。映画史家/映像アーキビストいずれを目指す人にとっても最良の入門書といえるだろう。映像アーカイブの存在意義や上手な利用方法についての解説、フィルムの判別方法、復元の倫理原則、初期のカラー技法、短命に終わった形状などについてもくまなく解説してある。旧版は「Burning Passion」という題名だった。著者はイタリア人ですが元ジョージイーストマンハウス国際写真映画博物館(GEH)映画部門ディレクター、現スクリーンサウンド・オーストラリア代表で、ポルデノーネ無声映画祭の創設者の一人でもある。
※ スクリーンサウンド・オーストラリアは著者が在任中にオーストラリア国立フィルム&サウンドアーカイブ(NFSA)という名称に戻りました。
※ 本書は映画保存協会が和訳しました。また著者はその後ハーゲフィルム財団理事長を経て、現在はGEH映画部門ディレクターに返り咲きました。
http://d.hatena.ne.jp/filmpres/00010001
田中眞澄著 みすず書房 2005年
映画に関して保存すべき文化財はフィルムだけではない。映画に関する文献・雑誌・新聞、スチル等の写真、監督や出演者の残した個人的な記録等もすべて「映画保存」上無視できない貴重な文化財だ。筆者は長年にわたって小津を中心としたフィルム外資料の発掘と編集に携わってきた。その最終章となる本書には、あの「全日記」にも収録されなかった「陣中日誌」(小津自身の筆で「禁公開」と記されている)のほか、小津がみずからのライカで撮影した戦地の写真等、あやうく散逸をまぬがれた貴重な資料が多数収録されている。しかしここで着目すべきは、これらの資料自体の価値よりも筆者がこれらをどのように用いているかである。小津の〈内面〉を深く掘り下げ、小津映画の解釈を広げるためでは無論なく、筆者の視線は小津というきわめて精巧な(それだけいびつに歪んだ)フィルターを通して、彼と同時代を生きた人びとの思考や情緒の、あまりに一般的であるためにかえって輪郭がぼやけ、ほとんどだれも言語化しえなかったある像を捉えようとしている。そして筆者のそのような姿勢はまた、あらゆる文化財が過去に由来しながら、その存在は未来に開かれていることに支えられているという当たり前の事実を改めて私たちに考えさせてもくれるだろう。
http://d.hatena.ne.jp/filmpres/01820001
中山信如著 ワイズ出版 1999年 350頁
三河島の映画専門古書店、稲垣書店の店主、中山信如氏が『彷書月刊』に連載していたエッセイをまとめた本。映画監督、俳優、評論家などなどをめぐる、たくさんの<シネブック>が紹介されていている。一つ一つの章は短いものの、その圧倒的な読書量と内容の濃さにぐいぐいと引き込まれる。書誌的な情報も豊富で、読み終わると思わず本屋さんか図書館に行きたくなってしまう1冊。千駄木の古書ほうろうでは「稲垣書店がやってきた!」を開催(2006年)。詳しくはこちらをご覧のこと。
http://d.hatena.ne.jp/filmpres/00410001
劣化したナイトレート・フィルムの断片をつないだ作品のDVD。中央の画が溶けて踊っていたり、あるいはすっかり失われていたりする名もなき無声映画たち。その多くは染色/調色フィルムですが、水泡のように抽象的な形状のちらちらする様子がとても美しく、不思議な世界を生み出している。音を消してみるのもおすすめだが、フリッカーが出るので頭痛や目眩には注意が必要。
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