“Film Preservation Handbook”
Courtesy of SEAPAVAA
こちらは映画保存協会が賛助会員として加盟する東南アジア太平洋地域視聴覚アーカイブ連合(SEAPAVAA)のウェブサイトに掲載されている情報です。同じく即座に使用許可をくださったSEAPAVAA理事の皆さまに感謝いたします。
災害が起こると、視聴覚資料のコレクションには即時/長期的に様々な結果がもたらされます。
即時には、洪水・火災・収蔵庫の深刻な損傷や破壊などが想定されます。
長期的には、次のような事態が収蔵庫に起こり得ます。
・相対湿度が上昇し、60%以上の値に達する
・収蔵場所の温度が急激に高まったり、短期間で変動したりする
・害虫の被害が広がる
・酸化を促す物質やその他の汚染物質の値が高まる
災害対策は最優先課題であり、平時にも見直しが求められます。起こり得る災害を想定・検討することこそが、対策を立てたり、それを見直したりするための大切な第一歩です。
復旧に必要な設備や委託サービスも同様に調査し、常に情報をアップデートしておきましょう。
個々の職員は、自らが責任を担う領域に関して、災害対策の内容を十分把握していなくてはなりません。
コレクションをきちんと管理する作業―例えば〈適切なロール(巻)のテンション〉、〈フィルムと缶の両方にはっきり識別できる印を付けること〉、〈状態報告書の作成〉―が、防災対策の立案に重要な役割を果たします。
適切なロールのテンションが災害の衝撃を防いだり、緩和したりすることになり、また、わかりやすい識別票を付けるには状態報告書の正確な記述が不可欠です。
将来予測できない変化がフィルムに起こる可能性を鑑み、同じ災害を被り、同じ処置を施した他のフィルムをよく検証し、コレクションをさらなる危機から可能な限り守りましょう。
災害からの復旧段階で大切なのは、災害が起きたとき、いかに迅速にコレクションを安全なところに収容できるかです。フィルム・コレクションにとって「安全なところ」とは、常に低温/冷温で乾燥した環境を指します。したがって、災害対策を立てる際に最初に行うべき重要なことは、猶予なく使える低温/冷温の収蔵設備を近場に探すことです。手始めに食品メーカーや運送業者に尋ねてみてはどうでしょう。
災害復旧対策については、その他、以下のような点にも留意してください。
・コレクションの優先順位をはっきりさせておく
・職員はあらゆる段階に対応できるように、チーム体制をとる
・設備を整え、訓練の機会を持ち、その手順を頻繁に改善する
・必要な備品やサービスを提供する業者をリストアップし、そのリストを頻繁にアップデートする
洪水や消火などで深刻な水害を被ったフィルムは、低温状態で保管し、予想されるカビの繁殖やバクテリアの活動を抑える必要があります。濡れたフィルムを急に乾かすと、フィルムのロールの中でゼラチン質のエマルジョン層が隣り合った層と貼りついてはがれなくなってしまいます。これは固形化(ブロッキング)と呼ばれ、深刻な問題になり得ます。
消火用ホースが使用された場合、フィルムとそのフィルム缶を照合する必要が出てくるでしょう。ホースからの水圧で棚から缶が吹き飛ばされてしまうからです。
〈水害からの復旧〉
最初にとる処置は、清潔な―できれはイオン除去された―水または蒸留水でゆすぎ、表面に付着した汚れを取り除くことです。
低温/冷温状態を保つことのできる一時的な保管所に置いて次の保管処置を待ちます。
これは時間との闘いです。
生物学的反応や、化学的反応の速度を冷温状態で抑えることはできても、止めることはできないのです!
保存処置を素早く施せば、より深刻な損傷にいたる危険性は軽減できます。
この段階で、検査目的でもフィルムのロールをほどかないでください。
劣化フィルムに見られるように、フィルムが高い値の酸を発していたら(ビネガーシンドロームの症状にあるなら)、ゼラチン質のエマルジョン層はとても不安定な状態にあり、フィルムをほどくことによって重大な損傷を受けます。
相対湿度が高いところで長時間保管されていたフィルムも、やはり、すぐにほどいてはいけません。ゼラチンがブロッキングを起こす可能性があります。
災害が与えた影響の度合いを見定めるため、注意深くフィルムのロールをほどいての検査はある段階で行わねばなりません。可能であれば、それぞれの収蔵場所から統計的にサンプルを決めて行うといいでしょう。しかしその作業のためには、フィルムの取り扱い、特にブロッキングの問題など、不注意な調査によってさらなる損傷が起こらないように、職員研修が必要になってきます。
迅速に救済対策を講じたいと考えてしまうのは当然ですが、長時間フィルムを巻き取っていると、その結果として、職員が職業性過使用症候群(Occupational Overuse Syndrome)を発症する可能性など、労働安全・衛生上の問題が起こり得ます。したがって、十分配慮され、適切な計画に則った/設備の整った環境が用意されるべきです。
ゼラチン質が安定している場合、損傷を受けたフィルムに施すべき処置は、ゼラチン質やベース面から汚染物質を取り除く再洗浄と考えて間違いないでしょう。再洗浄の前に、エマルジョン層の粘着物を丁寧に取り除く「アンブロッキング」の処置が必要になるフィルムもあるでしょう。これは専門性の高い処置で、しばしば長い時間を要し、さらなる損傷からフィルムを守るため細心の注意を払う必要があります。
水を使う再洗浄の後には、溶剤を使うクリーニングも必要です。これによって災害の過程でフィルムに付着した油分などを取り除きます。
火災はフィルムを焼き払ってしまうという、手の施しようのない結果をもたらしますが、それだけではありません。次のような問題も起こります。
・プラスチック製のリール、フィルム缶、缶のコート剤が溶け出してフィルムに付着する
・フィルムベースの形状が大きく変化したり、歪んだりする
・映像の損失(特に色素が薄れたり、失われたりする)
・ゼラチン質のエマルジョンが溶けてブロッキングが起こる
火災によって、フィルムの一部分だけが被害を受けることもよくあります。比較的低温の熱がフィルムのベース素材に影響したと考えられる場合、重大な影響を受けるのは、直接的に火に触れていた場所だけです。しかし収蔵方法によって、あるいは被災時に何らかの機材の中を走行していたフィルムによっては、破壊的な影響受けることがあります。例えばリールの部分的な損傷はフィルム上の周期的な傷となって現れますし、被災時に映写や複製作業の途中だったフィルムのコンテンツが一定間隔で失われることもあります。
〈火災からの復旧〉
火災からの救済の第一段階は、フィルムを識別し、明らかな物理的ダメージや汚れを見極めることにあります。軽い汚れは掃除機で吸い取りましょう。溶けたプラスチックやコート剤は注意深く行えば取り除けることもありますが、多くの場合、粘着していて難しいでしょう。フィルムは再び缶に入れなおす必要があります。必要なら、全てのラベルを新しい缶に写し取ります。
調査の結果、エマルジョンがブロッキングを起こしていたり、非常に脆くなっていたりすることが判明したフィルムは、とくに迅速なケアが必要です。フィルムリールの外側の何層かを見て、形の変化や歪みの有無を確認します。変化はどれも外側の層に最も顕著なはずです。
火災の被害に遭ったフィルムでも、アンブロッキングに成功するものも少しはあります。しかし、かなり危険が伴う作業なので、最終手段としてください。
大規模な補修作業に着手する前に、所蔵コレクションの中から複写するフィルムをチェックしましょう。複製したフィルムのコレクションの現状を変えること、または他の機関から複製を入手するほうが費用効率が高いこともあるでしょう。
他に選択肢がない場合、損傷した部分をフィルム全体から取り除いて、残りをスプライス(接合)することもあり得ます。
地震などの災害が起こって、収蔵施設に重大な損傷が発生したり、フィルムが落下したりした場合、職員がその場所へ戻ることができるまでに安全が確保されたら、まずはフィルムを識別して、それぞれの缶に戻したり、もとの缶が使えなくなっていたら新たなものに入れ直したりします。この段階で汚れなどは取り払う事ができます。
物理的な損傷は、しっかり見極める必要があります。フィルムが水や火から影響を受けていなければ、ロールを注意深くほどいて調査します。容器に格納されているフィルムは比較的しっかり巻かれていて、物理的な損傷はリーダーの端やリール、コアに留まる可能性が高くなります。そのため、基本的な補修技術があれば、十分に使える状態にまでフィルムを回復させることができます。
収蔵庫に戻す前に溶剤でのクリーニングができれば望ましいのですが、必ずしも重要な作業ではありません。フィルムがどのような状況に晒されたか、缶が損なわれていないかといったことから決定すべきでしょう。
収蔵庫の施設に故障が起こった場合は、収蔵庫への立ち入りを延期すべきです。そうすることで、庫内の温度が上がる確率を遅らせ、水蒸気の流入量も減らすことにつながります。
施設がすぐに修理できなかったり、スタッフが監視できる環境ないときに故障が起こった場合、または修理の手配が遅れる場合は、状況報告に「収蔵設備の中断」と記載すべきです。庫内の状態を遠隔で感知するセンサーはとても役立ちます。最初に設定した安全レベルを超える場合は、コレクションを一時的に別の収蔵庫に移動する手配が必要になります。
通常のインスペクション、検査、収蔵施設内のデータ採取によって、長期的な課題を管理することができます。長期保存に入る前に適切な準備―適切なロールのテンション、缶の素材、フィルム缶の中に関係ないものを入れないことなど―によって、確実に危険度は下がるでしょう。
加えて重要なのは、収蔵庫の周りの害虫を減らすため、環境衛生の改善や有害動物の管理をすることです。有害動物の管理は必ずしも化学的な燻蒸を指すのではなく、むしろ以下のような方策を立てることによって、害虫を防ぐことを意味します。
・植物やゴミを建物の周りから遠ざける
・屋上やサービスエリアの周辺にある潜在的な侵入箇所を塞ぐ
・収蔵庫そのものを常に清潔にし、ゴミを取り除く
衛生状態を維持する方法は、総合的有害生物管理(IPM)と呼ばれています。IPMは環境、食物源、建物の侵入口を制御することに焦点を合わせて、有害動物を防ぎ、管理するために罠をかける方法です。大量侵入や、全体的なやり方でも問題を十分統御できない時にのみ、化学物質を使います。
以下の質問事項を活用して、あなたの組織のコレクションに相応しい災害対策を策定してください。
・コレクション規模を調査したことがありますか?(例えばキャリア―フィルム、ビデオ、音声テープ、レコード、CDなど―の数や収蔵品の数)
・キャリアごとの数を記録していますか?
・コレクションのすべてを一か所に集約して置いていますか?
・キャリアの種類ごとに異なる場所に保管していますか?
・コレクションに優先順位をつけ、最も価値のあるアイテムを認識していますか?
・保存用や閲覧用など目的を分けて、目的に応じて使途を限定していますか?
・コレクション情報の報告書の予備を残していますか?
・予備を残している場合、オリジナルの報告書と予備とは離れた場所に置いていますか?
・報告書は常にアップデートされていますか?
・キャリアは保護された状態で適切に収納されていますか?
・フィルムやテープは、長期保存用に適切なテンションで巻かれていますか?
・キャリアは長期保存用に適した向き、すなわち、フィルムは水平、テープやディスクは垂直に収蔵されていますか?
・キャリアの状態報告書を作成していますか?
・報告書を作成している場合、そのコピーを残していますか?
・コピーを残している場合、オリジナルとコピーは離れた場所に置いていますか?
・収蔵庫には、例えば電話など信頼できる連絡設備がありますか?
・収蔵庫の電力は安定していますか?
・収蔵庫には予備電源や緊急時の電力供給源はありますか?
・収蔵庫では浄水が安定して使用できますか?
・収蔵庫には車輌がすぐに入れるようになっていますか?
・収蔵庫は地下にありますか?
・収蔵庫は川の近く、または低平地にありますか?
・収蔵庫には、例えば屋根の雨どいや雨水の排水など排水設備が整っていますか?
・収蔵庫の空調システムは常に点検を受けていますか?
・収蔵庫は常に構造的な問題を点検していますか?
・収蔵庫の温度は監視されていますか?
・収蔵庫の湿度は監視されていますか?
・監視されている場合、その記録を残していますか?
・収蔵庫は、たとえばコンクリートや鉄筋といった、がっしりした燃えない素材で建造されていますか?
・収蔵庫に火災報知機は付いていますか?
・収蔵庫に消火設備(水によるもの、またはガス放出式の消火設備)は設置されていますか?
・収蔵庫には持ち運べる(例えば消火ホース、泡、乾燥パウダー等による)消火器はありますか?
・火災報知機、消火設備、持ち運べる消火器は、常に検査点検されていますか?
・水道管、排水管、下水道管は収蔵庫内または収蔵庫の真上を通っていますか?
・ガス管は収蔵庫内または収蔵庫の真上を通っていますか?
・電線は収蔵庫内を通っていますか?
・収蔵庫には燻蒸設備その他の有害動物の制御方法がありますか?
・燻蒸の頻度は年一回ですか?それとももっと頻繁に行っていますか?
・収蔵庫は、床の拭き掃除や洗浄、徹底したゴミの除去など内部のクリーニングを常に行っていますか?
・内部のクリーニングは年一回ですか?それとももっと頻繁に行っていますか?
・収蔵庫は、壁面のゴミの除去その他の外部のクリーニングを常に行っていますか?
・外部のクリーニングは年に一回ですか?それとももっと頻繁に行っていますか?
・収蔵庫は地震の起こり得る区域にありますか?
・収蔵庫は活火山、または噴火の可能性のある火山の近くにありますか?
・収蔵庫は台風やサイクロンといった、熱帯低気圧の影響を受けやすい区域にありますか?
・収蔵庫は高レベルの大気汚染がある工業地帯にありますか?
・収蔵庫は石油精製所その他の化学工場など、爆発または大規模な火災の起きる危険のある工業地帯にありますか?
・収蔵庫は同じ建物の中のボイラー室や空調設備室に近いところにありますか?
・災害時の建築業者、電気技師、配管工といった外部の機械技術者の情報を確保していますか?
・災害時の資料の修復管理者といった外部の技術援助先の情報を確保していますか?
・あなたの組織は災害が起きたときに外部の緊急収蔵先、たとえば食品冷蔵会社、運送容器レンタル業者などの情報を確保していますか?
・これら外部の情報はすぐに分かる場所に記録されています
・災害時に屋根や壁の防水シートなど、コレクションを素早く守る手段を確認していますか?
・上記の質問に「はい」と答えられる場合、それらは災害時にすぐ手の届くところにありますか?
・職員は災害に対応できるように訓練されていますか?
・災害からの復旧を監督する職員が誰なのか、確認したことがありますか?
・その職員には、必要な災害復旧作業のすべてに対して権限を持っていますか?
・職員は防火避難訓練など、火災に対応できるように訓練されていますか?
・救急隊員、監督者、管理者など、災害時の連絡方法は職員に周知されていますか?
・すぐに使うことができる災害復旧用の資金は確実に割り当てられていますか?
以上、東南アジア太平洋地域視聴覚アーカイブ連合 SEAPAVAAのウェブサイトより(日本語版制作:映画保存協会)
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