水損フィルム(8mm)の応急処置

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水損フィルム(8mm)の応急処置

本テキストはビデオガイド(vimeo)とあわせてご利用ください。PDF版もご活用ください。このほか、英語テキストもご用意しております。

* 被災した家庭用ビデオテープの応急処置につきましては、こちらをご覧ください。

準備するもの:ゴム手袋(介護用/医療用)、マスク、筆記用具、定規、デジタルカメラ、バットまたはバケツ、歯ブラシ(できるだけ小さい子ども用サイズ)、タオル、ガーゼ、紐、ゼムクリップ(できるだけ小さい文具用クリップ)

あると便利なもの:エプロン、写真フィルム用のスポンジ(家電量販店等の写真用品コーナーで500円程度で販売されている)、団扇または扇風機、ドライウェル(家電量販店等の写真用品コーナーで250ml 300円程度で販売されている)、ルーペ
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【備考1】
・現地で入手困難な物品につきましては、災害対策部までご相談ください。
・ビデオガイドの撮影には、40×25cm(深さ15cm)のバットに5リットルの水を入れて使用しました。サンプルとして洗浄したのは15mの長さの8ミリフィルム(シングル8)です。撮影は7月下旬に実地したので、フィルムは30分程度で乾きました。乾燥時間は環境によって変動するため、乾いているかどうかは慎重に確認してください。

● はじめに

海水などに浸かった映画フィルムの最も有効な救済方法は、収集保存機関や現像所などの専門施設に早急に届けることです。なぜかというと、ロール状のまま固まってしまうブロッキングという症状や、カビ・バクテリアの発生など、致命的な損傷を避けるためには、できるだけ早く適切な洗浄を行い、乾燥させる必要があるからです。しかし、全ての国・地域に受け入れ可能な専門施設が存在するわけではありません。ここで説明する簡易洗浄は、専門的な知識や技術を持たない方でも実行可能な応急処置として考案しました。この簡易洗浄だけでは長期的な保存にはなりませんが、二度と見られなくなる致命的な結果は回避できる可能性が高まります。少しでも不安をお持ちの方や、戦前の古いフィルムなど貴重なコレクションをお持ちの方は、事前に災害対策部までご相談ください。

● 事前確認(フィルムの「種類」と「状態」の2点を識別する)

(1) フィルムの「種類」の識別

映画フィルムには35mm、16mm、8mmなどの種類があります。35mm、16mm、8mmはフィルム幅から簡単に識別できます。これから説明する簡易洗浄の主な対象は、一般家庭で保管されていることが多い「8mm」です。


(左から8ミリ、16ミリ、35ミリ)


(左がスーパー8、右がダブル8)

幅が8mmの映画フィルムが「8mm」です。また「8mm」の中でも〈スーパー/シングル〉と〈ダブル〉の二つの形状が存在します。フィルムの穴(パーフォレーション)の大きさが異なりますが、スーパーもダブルも同じ工程で洗浄できます。35mm、16mmも短いフィルムなら洗浄できますが、長くなると取り扱いが難しいので、長尺のフィルムをお持ちの方は災害対策部にご相談ください。


このようなカートリッジに入っている真っ黒なテープは「映画フィルム」ではなく、磁気テープです。お持ちの方は、災害対策部にご相談ください。

(2) フィルムの「状態」の識別

簡易洗浄する前に、以下の3つ(A〜C)にあてはまるフィルムを除外してください。
A: 汚れているだけで濡れていないもの、もしくは濡れた後で完全に乾いてしまったもの。
B: フィルム全体が固まってロールがほどけないもの、もしくは粘着性を帯びてロールをほどく時にバリバリと音がするもの。
C: エマルジョン(画像)が既に溶けているもの、もしくは触るとエマルジョンが剥げ落ちて透明になってしまうもの。

諸条件によりますが、水損フィルムは2週間以内であれば簡易洗浄で救済できる可能性が高いので、2週間以内を目安としてください。それ以上経つとBやCに当てはまる可能性が高まります。BやCの状態にあるフィルムを洗浄すれば、画像に損傷を与えることになります。また、Aのように濡れていないフィルムにも、カビやバクテリアが発生することがあります。A〜Cに該当するフィルムをお持ちの方は、災害対策部にご相談ください。

ビデオガイド その1 作業前の5つの注意点

First-Aid Treatment for Water-Damaged 8mm Films Step1. 5 Points to Check Before You Start from Film Preservation Society on Vimeo.

① リールやケースに文字情報があれば、フィルムを洗浄する前に書き写したりデジカメで撮影するなりして記録を残してください。洗浄によって消えてしまう可能性があります。

② フィルムを扱う時は、必ずマスクとゴム手袋を着用してください。

③ ゴム手袋が用意できず素手で触る場合は、フィルムのエッジをはさんで持ってください。濡れたフィルムの表面を素手で強く触ると指紋が残ることがありますので、できるだけ触らないでください。

④ 水に対するフィルムの耐性を確認してください。フィルムのトップ付近を水で塗らしたガーゼで軽く拭き、しばらくして変形(カーリング)がないか確認します。酸っぱい臭いがするフィルムは、水に浸すとスルメをあぶったように急激に収縮して丸まってしまうことがあります。そのようなフィルムは洗浄できません。

⑤ フィルムはロール状のまま乾燥させないでください。ロール状のままフィルムを乾燥させると、貼り付いて固まってしまう恐れがありますので、注意してください。ロール状のままフィルムが乾燥しはじめたら、水道水に浸すか、霧吹きなどで加湿してください。

ビデオガイド その2 簡易洗浄

First-Aid Treatment for Water-Damaged 8mm Films Step 2. Simple & Easy Washing from Film Preservation Society on Vimeo.

① フィルムの長さを調べます。
2-1様々な長さのフィルムがあります。リール内のフィルムの直径が5cmで約15mになり、この長さが最も一般的です。リール内のフィルムのロールの直径が10cmで約50m、直径が15cmで約100mになります。まず、おおよその長さを調べてください。

② フィルムの長さに合ったバットを用意し、きれいな水道水を入れます。
バットは大きければ大きいほど作業しやすくなります。大きいバットが無ければ、複数のバットを利用してください。
参考:8mmの場合、10リットル程度のバットで約30cmまで入ります。

③ フィルムをリールから慎重に引き出し、バットの中に入れてください。
2-3
リールから引き出す時は、必ず一定方向にまっすぐ出してください。らせん状に垂らして出すと、フィルムが絡まって巻き取りが困難になります。

④ フィルムをバットの中に出し終えたら、バットを軽くゆすって汚れを落としてください。
絡まって巻き取りが困難になりますので、絶対に手で手で掻き混ぜないでください。フィルムを強くこすって洗浄すると、エマルジョン(映像)が溶ける場合がありますので、注意してください。ただし、リールに巻かれていたフィルムのトップ20〜30cmは、特に汚れが付着していることがありますので、汚れが気になる箇所はガーゼ、もしくはフォトスポンジで軽く拭いてください。海水に浸かったフィルムの場合、しばらく水に浸けることで脱塩することができますが、長時間フィルムを水に浸けておくとエマルジョンが軟化しますので、注意してください。

⑤ フィルムを出し終えたリールは、別のバット内に水を張り、歯ブラシで洗ってください。
2-5一見きれいに見えるリールでも、細かい汚れが付着している場合がありますので、必ずブラシがブラシを使って汚れを落としてください。

⑥ リールを洗い終えたら、そのリールを使ってまた元通りにフィルムを巻き取り、軽く水気を切ってください。
きつく巻きすぎると、摩擦でエマルジョンが傷つくことがありますので、この時点ではゆるく巻いてください。巻き取るときは、リールから出し終えたフィルムの端から巻いていくと絡まりづらくなります。

ビデオガイド その3 乾燥

First-Aid Treatment for Water-Damaged 8mm Films Step 3. Drying from Film Preservation Society on Vimeo.

① 乾燥させる部屋の中に、棚などを利用して紐を張ってください。
フィルムを乾燥させる部屋の条件は、できるだけ低湿度で、空気の流れが良く、ほこりが少なく、直射日光が当たらない室内です。
参考:15mの8mmフィルムを乾燥させるには、約4mの長さの紐を床から約150cmの高さに張る必要があります。

② 紐に複数のゼムクリップを付けてください。
ゼムクリップはフィルムの穴(パーフォレーション)にひっかけられるように、手で軽く曲げてください。洗濯ばさみは傷の原因になりやすいので、おすすめできません。

③ フィルムの穴をゼムクリップにひっかけ、紐からU字型に垂らしてください。
3-3-2この時、フィルムとフィルムが触れない程度の間隔が必要です。触れた状態で乾燥すると、そのまま貼り付いてしまうことがありますので注意してください。穴にクリップが入らない場合は、そのままクリップで挟んで固定させてください。

④ 吊るし終えたら、きつく絞ったガーゼまたはフォトスポンジで水滴を拭き取ってください。
水滴をきれいに拭き取らないと、乾燥ムラが残ってしまうことがあります。ただし、拭くことによってエマルジョンが傷付いたり溶けたりする場合は、拭かずにそのまま乾燥させてください。ドライヤーなどで急激に乾燥させるとフィルムが変形してしまうことがありますので、自然乾燥させてください。吊るしたフィルムに直接風を当てないように扇風機で空気を循環させたり、団扇でフィルムをあおいだりすると、より早く乾燥し、乾燥ムラもできにくくなります。

⑤ 使用したリールは、タオルで拭いて完全に乾燥させてください。

⑥ フィルムが完全に乾燥していることを確かめます。
水滴が見えなくなっても、まだフィルムが濡れていることがあります。目視だけでなく、素手で軽くフィルムを触り、完全に乾燥したかどうか確認してください(表面を強く触ると指紋が残ることがありますのでご注意ください)。粘着性が残っていたら、まだ濡れている証拠です。ただし、塩分の付着やエマルジョンの溶解による粘着性は、フィルムが乾燥した後も残る場合があります。十分に乾燥しないでフィルムをリールに幕と、フィルムが貼り付いて剥がれなくなることがありますので注意してください。

⑦ 元のリールに巻き取ってください。
3-7隙間ができない程度の軽い力でフィルムを巻き取ってください。力を入れ過ぎるとフィルムが変形していしまいます。

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