「アーカイブズ・カレッジ」短期コース 参加レポート

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「アーカイブズ・カレッジ」短期コース 参加レポート

【2012年度】「アーカイブズ・カレッジ」短期コースに参加しました

2012年11月13日~18日、国文学研究資料館主催の「平年24年度アーカイブズ・カレッジ」短期コースに参加しました。今回の会場は福井県文書館で、県立図書館に併設された2003年設立の真新しい施設です。

このアーカイブズ・カレッジの目的は、「記録史料の保存と利用サービス等を担う専門職員の養成」。参加者は33名で、全国の文書館や資料館、図書館にお勤めの方や、企業アーカイブ担当者、研究者、大学生などさまざまでした。講師は、実際に研究機関や地域史料館で日々多様なアーカイブズに取り組まれている方々で、現場のレポートを交えて学べる充実の1週間となりました。

(和紙の伝統的な裏打ちの実演)

講義は毎日9:30から16:50まで。その内容は、記録を遺すとは、アーカイブズとは、まつわる法律、アーカイブズ学の歴史、についての概論にはじまり、各自治体アーカイブズの実例や海外の事例、災害対策と減災対策、保存修復にいたるまで多岐に渡りました。座学以外にも、具体的な目録作りのケーススタディや、福井県文書館の収蔵庫や作業場の見学、和紙の裏打ち、こよりを作って資料を綴じる実習もあり、楽しく参加することができました。

6日間と短期間でありますが、アーカイブズ学の全体像がコンパクトにまとまった内容だったと思います。ついていくのが精いっぱいで、とても学んだ内容を全て吸収できたとは言えませんが、大変貴重な学びとなりました。授業で取り上げる例として、主に文書館の紙媒体が中心ではありましたが、増え続ける視聴覚メディアの扱いをどうするか、さらに多様化するデジタルデータの取り扱いをどうするか、という問題提議は何度となくされました。また、今年からはじまる「アーキビスト認定資格」のことは、特に話題に上ることが多かったように思います。その意義や懸念点については、講義が終わってから参加者同士の会話の中でも熱心に意見が交わされていました。(大橋 聡子)

初出:映画保存協会メールマガジン『メルマガFPS』Vol. 90(2013.01)

【2010年度】アーカイブズ・カレッジ参加報告

国文学研究資料館が毎年開催している「アーカイブズ・カレッジ」の短期講座に参加してきました。期間は2010年11月8日(月)~13日(土)、会場は名古屋大学です。

この講座について知ったのは、実は1年半ほど前、メルマガFPSの「お知らせ」コーナーに載った記事です。「アーカイブズ」というのが、あまりよく理解できていない私は、この頃から興味があったのですが、何事も始めるまで時間のかかる性格のため、いろいろと理由をつけて昨年は参加を見送っていました。今年から文京映像史料館(BFA)の仕事を始めるにあたり、やっぱりアーカイブズの基本的なことを知らないと、という気持ちがようやく盛り上がり、申し込みをしました。会場になる名古屋は、昨年の「ホームムービーの日(HMD)今年の1本上映会」などで何度か訪れたことがあるので、親近感があったのも大きな理由です。

宿は名古屋の繁華街、栄にあるビジネスホテルを予約しました。7日(日)の21時30分ごろの新幹線に乗り、名古屋駅に到着したのは大分遅くなりましたが、ホテル近くの久屋大通駅までは名古屋駅から地下鉄で3駅なので便利です。駅で「ユリカ」という、バスにも地下鉄にも使えるプリペイドカードを購入しました。栄から名古屋大学までは地下鉄もありますが、市バスが通じていて、時間さえ合わせて行けば地下鉄より安く、車窓を眺めながら通学できますので、こちらを選びました。

8日(月)の9時30分から授業開始、教室は名古屋大学博物館の3階にある会議室です。参加者はちょうど30名。毎日出席簿に認め印を押していくのですが、初日10分ぐらい前に教室に入ったときはもう席がほとんど埋まっていました。

最初のオリエンテーション内の自己紹介で、北海道から沖縄まで、全国各地の方が参加していることが分かりました。各自治体の歴史編纂をしていたり、公文書や古文書などを扱う仕事についていらっしゃる方が多いですが、大学の資料室や歴史編纂に携わっている方、図書館司書の方、美術館勤務の方など多種多彩です。長期コースは夏にほぼ2ヶ月かけて行われるため、学生が大半を占めるそうですが、短期コースは日々、文書や写真といった資料の整理・調査に直面している実務者が多く、ここでより一層学び、帰ったら経験を活かしたい、という気持ちがこもっている自己紹介タイムでした。私はFPSから来て、小型映画の調査をしていることを話してみましたが、人前で話すときはやはり緊張するもので、何だか早口でゴニョゴニョしてしまいました。自己紹介というのは大体悔やまれることばかりですが、足りない部分はカバンに入れたFPSのリーフレットやHMDポストカードを少しずつ配って挽回です。

幸いなことに、脚本アーカイブズの方や今年のHMD名古屋に参加した学生さん、谷根千工房の皆さんをご存知の方などがいて、そこから輪を広げていくことができました。12日(金)の夜には懇親会も開かれ、たくさんの方とお話することができました。また、昼食は学食を利用でき、そこで同級生とあれこれ雑談するのも楽しい時間でした。

授業は大学と同じく1時間半が1コマで、大体2コマ続けて一人の先生の授業になります。1日の授業は4コマなので、毎日先生は2人ずついらっしゃいます。初日に全体のテキストを綴じたファイルをもらったのですが、それぞれの授業で配布資料をドサッともらい、しまいにはファイルがふくれ上がって機能不全になってしまいました。前にも書いたように、本来は長期コースで2カ月かけて学ぶ内容を1週間で済ませるのですから、いきおい内容は濃密になります。授業内で話し終わらないところはホテルに持ち帰って目を通すことになります。さらにテキストに挙げられた参考文献リストにも圧倒され、「分からないところが分からない」という事態に陥りそうなこともありましたが、授業で学んだことを、次号から自分なりに書いてみたいと思います。

まずは2011年4月から施行される公文書管理法です。各省庁が持っている文書を、保存期間が過ぎた段階で公文書館に移管し、保管・公開していくための法律です。各自治体もこの法律にならった形で条例を作り、役所の文書を保存していくことになります。

以前、板橋区公文書館に見学に伺ったことはありますが、仕事や生活で公文書というものにほとんど触れたことのない私は、このあたりの理解がかなり難しいものでした。ですが、自治体にお勤めの方は、これはもう緊急の課題です。条例制定や公文書館の設置、保管場所、役所のなかでの文書の流れなど、あと数ヶ月の間に決めるのは本当に大変なことだと思いました。

ただ、公文書として残るのは、稟議を立て、各部署の長に印鑑をもらって完成した決定文書、いわば「骨」の部分で、そこに至るまでの会議録・メモのような「肉」の部分はむしろ個人が持つ文書のなかに残るものだ、という先生のお話にはなるほど、と思いました。確かに日々の仕事でも、完成したものは残しますが、その間に発生したものは、ひと仕事終わると裏紙に回すことが多いです。何だか日頃の生活態度を改めなければいけないなぁ、とヒヤヒヤした気持ちになりましたが、必要があって家に持ち帰ったり、ちょっとメモしていることが、のちのち重要な記録になることは確かにあります。まさに『メモのある生活』。今年のD坂シネマ第一夜のことが頭に浮かびます。

この法律は名古屋大学のような独立行政法人(旧国立大)にも適用されます。木曜の授業で名古屋大学大学文書資料室を訪問しました。

建物は一度大学の敷地の外に出たところにあります。文書を整理し、目録を作り、オンライン上で管理するソフトを開発したり、普及活動をしたり、自校史の授業を運営したりと、その役割は多岐にわたるものです。ちょうど名大経済学部の前身である名古屋高等商業学校の展示が博物館で行われていて、授業の合間に見学しました。

展示の中にはイラスト付きの個人の日記や野球のスコアブック、テスト用紙なども含まれ、学生生活がじんわりと伝わってきて、個人文書の中に肉の部分がある、という話が実感できるものでした。大学内の文書館のような所は、内部で生まれる文書を蓄積し続けるのと、卒業生や教授といった組織に関わりのある人の個人文書を保管していく役割と、両方あるのだなと思いました。

その個人資料は、江戸時代など近世のいわゆる家文書と、近代以降の資料とおおまかに分けて学びました。江戸時代は幕府の儀礼として大切なことも、その職に任命された家がその管理をして、別の家が同じ職に就任したら、他家の記録を写させてもらうのだそうです。まるで『忠臣蔵』の世界ですが、「家」という単位が我々にはとても大切すぎて、公文書館という感覚が根付かないのかな、とボンヤリ想像してしまいました。もちろん、それぞれのお宅は近代以降も続き、その間にさまざまな変遷があるので、近世の資料を調査しに行くと、たいてい近代の資料もあるのが普通とのこと。ある先生のお話によると、中には髪の毛や入れ歯といった、とてもパーソナルなものも入っていたりして、アーカイブズが扱うものの範囲はものすごく広いことを知りました。

これらの資料の目録作りについてはかなりみっちりと学びました。うまく理解できているのか不安なのですが、とにかく、個々の資料に急に手を出していく=「木を見てから森」ではなく、まず概要調査をしてから個々に入っていく=「森を見てから木」が大事なのだそうです。それに従って上から下へ階層構造を組んでいくとのこと。その際の用語、「フォンド(出所)」「サブフォンド(内部組織)」「シリーズ(機能)」「アイテム(1点ごとの資料)」のことは何度も出てきました。家や個人の来歴に沿って年表を作り、そこから職歴などを引き出して階層を作ることは、資料に直接あたる前でも想像できる、ということで、ちょっとしたテストもありました。また、メタデータを記述するための国際標準「ISAT(G)(アイサットジー)」についても触れられました。さらに資料を調査する時も、他の資料と混ざらないように、資料が生まれた流れを尊重するように、原形を保存するように、きちんと記録をとるように、といった原則があります。アーカイブズの世界はとても厳密です。

ちょっと話をわき道にそらして、名古屋滞在中にずっとまじめに勉強に取り組んでいたわけではありません。授業が始まるのが9時30分、終わるのが大体17時、まっすぐホテルに帰るとまだ18時前です。一日目はさすがに疲れていて早寝しましたが、2日目にして夜がかなり長いことに気づきました。日本シリーズも私が新幹線に乗っている間にドラゴンズ敗退で終わってしまったので、テレビを見ていてもあまり時間がつぶせません。

ということで、いつもの通り映画鑑賞です。今池にある名古屋シネマテークと名古屋駅太閤口を出てすぐのシネマスコーレで映画を見てきました。考えてみれば、近頃はバイトが終わるとほぼそのまま帰宅していますので、学生に戻ったような気分です。同級生から夜も開いている美術館に足を運んだという話を聞いたりして、出かける前に町の情報をもうちょっと集めておけばよかったと反省です。

(シネマスコーレ)

もとに戻って、保存の授業では、紙資料からDVDまで、さまざまなものの劣化の過程をたどりつつ、カビや虫対策、包材について学びました。ADストリップもマイクロフィルムのところに登場です。アーカイブズの扱う資料は本当に幅広いので、個々の資料に対応しつつも、全体を眺めて泰然と保管していく姿勢が大事なのだと感じました。

そんな場合にやはり相談できる先やいろんな方と協力が大事です。さらに強調されていたのは災害対策のこと。先生は地震、台風による水害などなどで被害を受けた資料をかなり目にしておられるそうで、普段は余り考えないけれど、きちんとした対策は本当に資料を守るのだなと改めて思いました。

さらに紙資料の修復では、資料全体に和紙を張り合わせる「裏打ち」と、ちぎった和紙を混ぜた液体を資料の上に流し込んで掃除機で水分を吸い取りながら虫食いの穴などを埋めていく「漉嵌(すきばめ)」という作業を実際に見ました。何だか夏の「映画の復元に関するワークショップ」を思い出す光景です。裏打ちも漉嵌も、とてもすごい技術なのですが、和紙と液体を混ぜるのに市販のミキサーを使っていたり、ほこりを払うためのハケも用途に応じていろいろな種類のものを試したりしているそうで、妙に親近感を覚えます。修復の技術は昔から受け継いだたくさんの知識の上に、さらに創意工夫を積み重ねているんだなと思いました。

それから公開の際にひっかかる、情報公開法、個人情報保護法、著作権法のことも学びました。特に個人情報保護法は、グレーなものは心配だから非公開にしておこう、という消極的な気持ちが働いて、過剰に適用されている場合が多いことを聞いて、目からウロコでした。むしろ、公開するにはどうしたらよいかという側に立ち、個人を浮かび上がらせるような公開をしたら、持ち主も関わる人も喜んでくれる場合が多い、というお話には、うなずけることばかりでした。それと同時に、こうした法律の条文も難しそうだからと敬遠せずに、きちんと読んで理解できるようになりたいと思いました。全体を通じて、アーカイブズ学には法律がつきものだと実感しました。

さて、そんなことで一週間が過ぎました。目まぐるしい、と言葉が一番当たっている日々だったような気がします。授業を受けてもまだモヤモヤとしているところがありますが、1月初めまでに4,000字のレポートを出さなくてはいけないので、そのために参考文献を読んだりしていたら、もっと理解は深まるかな、と思えるところまでは来ました。とりあえず何から手をつけてよいか分からない、という状態からは脱したような気がします。

それと、さまざまな地域で実際に職務に就いている同級生と話をできたのもとても貴重な体験でした。みんな少しずつ立場は違いますが、何かしら不安や不足を感じていて、それでも毎日資料と格闘していて、そんな現状から編み出した方法を皆で持ち寄って相談しながら、アーカイブズ学は進んでいく面もあるんだな、ということにも今さらながら気づきました。

最後にちょっとお金のことを書きたいと思います。この講座自体にかかっている費用は、最初にもらったテキストの代金(今年は500円)だけです。短期講座は毎年東京以外の大学で開催されるので、そこまでの往復交通費と宿泊代に食費などのプラスアルファがあれば十分足ります。これは初心者にとっても入りやすい条件です。このレポートを読んで来年参加したいと思っていただけたら幸いです。

最後に先生方、国文学研究資料館の皆様、同級生の皆さんにお礼を申し上げます。ありがとうございました。(中川 望)

≪名古屋シネマテーク≫ http://cineaste.jp/
≪シネマスコーレ(若松孝二監督の映画館です)≫ http://www.cinemaskhole.co.jp/

初出:映画保存協会メールマガジン『メルマガFPS』Vol. 65-67(2010.10-2011.01)

Language: English

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