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レコードの適切な取扱いと保存方法

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レコードの適切な取扱いと保存方法

作成日 2012.03.30/最終更新日 2019.11.04

視聴覚資料の二つの大きな柱に、〈映画フィルム〉を含む「動的映像 Moving Images」と「音声記録 Sound Recordings」があります。ここでは音声記録の一つである〈レコード〉の保存について考えたいと思います。

・2013年1月18日(金)に開催された、日本図書館協会資料保存委員会主催の資料保存セミナー「視聴覚資料の保存」第4回レコード/講師:飯島満氏(独立行政法人国立文化財機構 東京文化財研究所 無形文化遺産部 音声・映像記録研究室長)の講義内容を参考に、主に「1 メディアの概要」「2 メディアの仕組み」を加筆しました。

・「慶應義塾大学アート・センター 油井正一アーカイヴ」のURLを変更しました。2016.09.05

・本稿を作成するにあたって、児玉優子様(学習院大学大学院アーカイブズ学専攻非常勤講師)、筒井弥生様ほか多くの方々にご助言をいただきました。心より感謝いたします。

はじめに:〈レコード〉を定義することの難しさ

日本では、1904年に初めて〈レコード〉という呼称が文献上に現れたとされます。この呼称、既に戦前には一般に普及していたようですが、戦時中は敵性語を避けるため「音盤」と表記されました。

狭義の〈レコード〉とは、螺旋状に刻まれた溝に音を記録したディスク/平円盤を指し、ターンテーブル/レコードプレーヤーを使用して再生します。ただし例外もあります。初期の〈レコード〉の形態はディスク状ではなくシリンダー/円筒型でした。本稿では主に戦前に普及したシェラック製の〈レコード〉をSPレコード、戦後SPに代わって普及した塩化ビニール製の〈レコード〉をLPレコードと表記しています。

日本の著作権法第二条(定義)によると、〈レコード〉とは、「蓄音機用音盤、録音テープその他の物に音を固定したもの(音をもつぱら影像とともに再生することを目的とするものを除く)」を指します。つまり広義の〈レコード〉には、カセットテープやCDも含まれるのです。一般社団法人日本レコード協会も、キャリアの種別を問わず、いわゆる音楽ソフト全体を「オーディオレコード」としています。

『日本目録規則 1987年版 改訂3版』「第6章 録音資料」(日本図書館協会)は、資料の種別を表す用語に「録音ディスク」、記録方式に「アナログ」を使用していますので、これにしたがえば、〈レコード〉は「アナログ方式の録音ディスク」と定義できるでしょうか。

1 メディアの概要

(1)歴史、特長

〈レコード〉は欧米を中心に発明され、改良されました。「【A】レコードの歴史(簡易年表)」をご覧ください。レオン・スコットは1857年、振動板に油煙の煤を塗った豚の毛を付け、音声を紙の上に波形として「記録」する「フォノトグラフ」という世界初の録音システムを発明しました。当時は「再生」機能がまだありませんでしたが、現在の技術でこれを12秒の音声ファイルとして聴くことができます(フランス民謡『月の光』)。

1877年にシャルル・クロスが論文上で発表した世界初の「記録と再生」の方式とほぼ同じ仕組みを使ってその実演に成功したエジソンは、同年12月6日(後の「音の日」)に「フォノグラフ」の特許を得ました。この最初期のレコードは直径約8cmの真鍮の円柱/シリンダーに錫箔(すずはく)を巻いたものでしたが、1887年に錫の代わりに鑞を使った「グラフォフォン」が生まれ、ワックス・シリンダー/鑞管(ろうかん)が登場。しかし次第に、より保管・複製しやすいディスク式/円盤が浸透していき、これが後のLPレコードの原型となりました。

ディスク式に移行してからも、米国では1930年代まで口述用にシリンダー型が使用されていました(商品名「ディクタフォン」)。これは、シェーバーで表面の音溝を削ることによって繰り返し録音できる機器でした。

【A】レコードの歴史(簡易年表)
1857年 「フォノトグラフ」レオン・スコット(仏)
〈世界初の音声記録システム〉
1876年 ベルの電話機発明によって音の再生が可能になる
(同時期に複数の研究者が再生可能なレコードを発明)
1877年4月 「ディスク式フォノグラフ」シャルル・クロス(仏)
1877年12月6日 音の日 「シリンダー式フォノグラフ」エジソン(米)
〈世界初の再生可能なレコード〉
1887年 「グラモフォン(ディスク式)」エミール・ベルリナー(独/米)
1906年 両面に音溝を持つディスクの登場
(1910年頃までにシリンダーからディスクに切替わる)
1948年 コロムビア(米)、世界最初のLPレコード市販
1949年 RCAビクター(米)、世界最初のドーナツ盤市販
1978年 LP生産ピーク

では、レコードは日本にいつ頃伝わって、どのように受容されたのでしょうか。時系列に沿ってごく簡単に記すと、次のようになります。

文献においては、1877(明治10)年の『学びの暁』第27号に「人声を発す機械の発明」として蓄音機/蓄音器が初めて登場しました。翌(明治11)年7月26日に発行された同人社文学雑誌は、「蘇言機ノ事」という見出しで蓄音機を紹介(当時の呼称は他に「写声機(平円盤)」「写話機器」「蘇定機」等)。同年1月16日(後の「録音文化の日」)に、東大理学部において国内初の録音・再生実験が行われました。このとき使用されたエジソンのフォノグラフと同じ仕組みをもつスコットランド製の機材が、2004年に重要文化財に指定され、その複製品は、上野の国立科学博物館地球館2階に常設展示されています。

続いて発明されたグラフォフォンについては、1889(明治22)年の「官報」が最初に掲載しました。そして1891(明治24)年、愛知岡崎の時計職人・中条勇次郎が国産蓄音機の第1号を完成させました。日本初の蓄音機専門店「三光堂」が東京浅草に開業したのは、1899(明32)年です。

ディスク式で日本人の録音第1号(初の商業用日本語レコード)とされるのは、1900(明治33)年、パリ万博における川上音二郎一座の録音です。この音源はEMI社(英)に保存されていたSPレコードからCD化されています。

国内における最古の録音は、EMIの前身であるグラモフォン社(英)の技師フレッド・ガイズバーグによる1903(明36)年の「出張録音」にまで遡ります。ガイズバーグが録音した当時の日本の音楽・芸能273演目もまた、CD化されています。コロムビア社(米)、ベカ社(独)、ビクター社(米)、ライロフォン社(独)、パテ社(仏)の派遣技師による「出張録音」は、1910年代まで行われました。

1910(明治43)年には日本初のレコード会社・日本コロムビアの前身「日本蓄音器商会」(戦時中は日蓄工業、通称ニッチク)が起業し、ニッポノホン・レーベルのレコードや蓄音器を販売。徐々に国内の富裕層にレコード文化が普及し、大正期にはレコード著作権も確立されたということです。

1951(昭和26)年3月20日(「LPレコードの日」)に、日本コロムビアが日本で初めてLPレコードを輸入発売するに至り、主流はSPレコードからLPレコードへと移っていきます。SPレコードの生産は、国内では1963(昭38)年に終了しましたが、LPレコードの生産は現在でも続き(国内では横浜市鶴見区の東洋化成が有名)、都内のアナログレコード専門店の数はネットショップを除いても190を超えています(2011年現在)。

愛好家が多く存在し、ターンテーブルやレコード針といった消耗品もレコード店や楽器店等で容易に入手できることから、レコードはもはや主要メディアとは呼べないものの、旧式化しているとも言い難い位置付けにあります。昨今、音楽ソフトの購入方法はデータファイルのダウンロードが主流です。4月の第3土曜日=RECORD STORE DAY JAPAN(レコード店の日)等が盛り上がりを見せる中、レコードの後に普及したCDのほうがむしろ先に廃れるのではないでしょうか。

【参考文献】
倉田喜弘. 日本レコード史. 岩波現代文庫. 2006. 318 p.
http://d.hatena.ne.jp/filmpres/13610001
前島正裕(国立科学博物館理工学研究部研究主幹). 音の博物館 蘇言機:日本で最初に音を記録再生した器械. 日本音響学会誌 65(2), 2009. p.105.
生明俊雄. 英国からの黒船 ガイスバーグの来訪:日本のレコード市場生成期における欧米メジャー企業の攻勢. 広島経済大学創立四十周年記念論文集, 2007. pp.833-856.
【参考ウェブサイト】
レ・コード館HP(北海道新冠町)[www.niikappu.jp/record]
【参考CD】
『甦るオッペケペー 1900年パリ万博の川上一座』(東芝EMI:1997.12.17)
『全集日本吹込み事始 一九○三年ガイズバーグ・レコーディングス』(東芝EMI:2001.04.25)

(2)用途

発明当時、レコードの音楽用途はあまり想定されておらず、例えばエジソンのフォノグラフも「視覚障害者を補助するため」に考案されたようです。映画の世界では、無声映画からトーキーへの変革期にアンプが発明されると、映写機と蓄音機を連動させるレコードトーキー方式が普及しました。その後は家庭や教育現場での音楽鑑賞用、BGM、語学教材、放送用メディアとして様々に使用されましたが、カセットテープやCDが汎用メディアとなって以降、愛好家による音楽鑑賞用、クラブDJ用等、使途は限定されていきました。

【フォノシート/シートレコード】
『季刊アナログ』17・18号(音元出版 2007-2008)の菅野沖彦氏(オーディオ評論家/元朝日ソノプレス社社員)の発言より:朝日ソノラマの登録商標「ソノシート」としても知られる。アシェット社(仏)が開発し、世界で初めて雑誌の付録として販売したが、日本では朝日新聞が凸版印刷とタイアップした1959年の「音の出る雑誌」が始まりだった。新聞の印刷用の輪転機を応用し、大判のビニールシートを回転させてプレス・裁断する方法で生産。一般的には17cmのディスクが多く、音質は決して良くないが、製造コストが安いため重宝され、後期にはステレオ化されたり、両面再生にも対応できるようになった。通常のターンテーブルで再生できるが、ペーパークラフトや自走式による専用の再生機も発売された。欠点は、薄いため折り目が付きやすく、盤面が歪んで針飛びの原因になりやすいところ。国内での生産は2005年に終了した。

2 メディアの仕組み

(1)材質と構造

SP(Standard Playing)レコード、LP(Long Playing)レコード、ドーナツ盤/シングルに関しては「【B】レコードの材質と構造」にまとめました。

【B】レコードの材質と構造(1インチ=2.54cm)
種別
SPレコード LPレコード ドーナツ盤
回転 78回転 33 1/3回転 45回転
英語圏の呼称 セブンティエイト バイナル セブンインチ
材質 シェラック 硬質の塩化ビニール樹脂
外径 主に25cm/30cm 17cm
厚さ 2mm前後 -
音溝/1インチ
100本前後
幅約0.15mm
300-400本
幅0.05mm以下
220本前後
片面 録音時間 25cm盤 3-3分20秒
30cm盤 4分半-5分
25cm盤 20-23分
30cm盤 30-35分
3分半
中央の穴 - 通常7.3mm 38mm

SPレコードはモノラル記録です。初期は回転数(rotation per minute, rpm)が標準化されておらず、80回転のものも多くあります。

東南アジア原産の天然樹脂シェラック=ラック貝殻虫の分泌物を主成分とする混合物の性質上、音質を維持しつつ録音時間を長くする工夫(盤を大きく、回転数を遅く、音溝間の距離を狭めてカッティングする等)には限界がありました。1kgのシェラックの精製には、15万匹のラック貝殻虫が必要になるそうです。戦時中に輸入が止まり、1930年代後半に人造樹脂が開発されました。過渡期にはベークライトや塩化ビニール樹脂のSPレコードも製造されました。

ほとんどが両面(A面/B面)のLPレコードと違って、SPレコードは片面のみの場合もあり、収集保存機関によっては枚数だけでなく面数も把握しています。

LPレコードは3分で100回転。同じサイズのEPレコード(Extended Playing)も45回転で、ドーナツ盤含む45回転盤をEPと称する場合もあります。EPの音溝は1インチあたり240本以上、片面の再生時間は7分以上です。高音質LPレコードとしての45回転盤も少数発売されました。

1958年からステレオ録音(1本の溝に左右2つのチャンネルの音を刻む)のLPレコードの販売も始まりました。内周側の音溝に左チャンネル(L)、外周側に右(R)の情報が記録されます。音溝の壁は互いに直角をなし、垂直軸から45度ずつ傾いています(45-45方式)。

SPからLPへの過渡期に放送局が使用した「アセテート盤」は、「玉音放送」の録音に使用されたことで知られます。この材質のレコードは極めて劣化しやすく、繰り返しの再生には耐えられません。NHKの放送博物館に展示されている玉音レコードの複製もごく初期から再生不能になっていたと言われます。なお、玉音放送のアセテート盤は、戦後70年の節目(2015年8月)に宮内庁がデジタル化に成功し、復元されました。

【参考ウェブサイト】
当庁が管理する先の大戦関係の資料について(終戦の玉音放送関係)(宮内庁)[http://www.kunaicho.go.jp/kunaicho/koho/taisenkankei/syusen/syusen.html]

(2)記録と再生の仕組み

・《記録》の仕組み
SPレコードもLPレコードも、ディスク上に刃で凹凸を刻みます。LPの場合、まずラッカーに専用のカッティング・マシンで音溝/グルーヴを刻んでラッカーマスター(A)とし、それをメッキしてメタルマスター(B)を作成します。このマスターからマザー(C)を経て作成するスタンパー(D)に、溶かした塩化ビニールを流し込みます。この工程は大抵の場合「プレス」と表現されます。

ディスクの中央のラベル/レーベルも同時にプレスされるため、レコードの素材が紙の繊維に染み込んで剥がれにくくなります。ラベルには、タイトルのほかレコード番号、製品番号/マトリックス番号等、目録に採録すべき重要なメタデータが記載されます。

A マスター 凹盤(戦前はワックス、戦後はラッカー)
 ↓
B マスター 凸盤(金属原盤/メタル原盤/メタルマスター)
 ↓
C マザー 凹盤
 ↓
D スタンバー 凸盤
 ↓
E レコード 凹盤

凸盤でも、特殊針を使えば再生は可能です。輸入レコードの国内版は、マザー(C)を購入して制作されました。マスターに近いほど音質が良いため、初盤を好む愛好家もあるそうです。メタルマスター(B)で直接プレスする「マスタープレス」方式もある一方、市販のレコード(E)をマザーとしてスタンパーを作成し、そこから大量プレスする廉価版/海賊版レコードもあります。

・《再生》の仕組み
SPレコードの場合、回転するディスクの音溝から針が拾いあげた振動を、サウンドボックス内のダイアフラム(円形の振動盤)が中心で受け取り、波紋のように全体に均等に伝えることで音を再生します。その音を拡大するのがラッパ型のホーンの役割です。エジソンの蓄音機のホーンは直線的な形をしていますが、後に音の伝わり方に抵抗が少ない曲線へと改良され、それまで出なかった低音・高音も再生可能になりました。

針に使用されたのは鉄や竹です。

LPレコードの再生も基本的な仕組みは同じですが、音はアンプで電気的に増幅してヘッドフォンやスピーカーに出力します(ターンテーブルに耳を近づければ、微かに音を聴くことができます)。LP用の針の寿命はサファイアで30時間、ダイアモンドで500時間と言われ、現在流通しているものは、ほとんどダイアモンドです。音溝の振動は、外から中に向かって針でトレースします(SPには、中から外にトレースするタイプもあります)。

近年では、レーザー再生する非接触型の再生機も市販されています。

3 メディアの保存

(1)破損や劣化の要因

アナログメディアの劣化の要因は、1:機械的ダメージ、2:生物学的ダメージ、3:化学的ダメージに分けて考えることができます。1:は再生時の事故(主に音溝の埃やゴミに起因する傷等)、音溝の磨耗や裂け、2:は高温多湿の気候や手垢・手脂に起因するカビの発生、3:は熱による変形(歪み)、帯電防止剤の化学変化による劣化です。

レコードの場合、本体以上にジャケット、帯、ラベル/レーベル、ライナーノーツといった紙素材の劣化も深刻です。SPレコードと LPレコードそれぞれの劣化については、「【C】レコードの劣化」にまとめました。

【C】レコードの劣化
種別
SPレコード LPレコード
比較的つきにくい
つきやすい
(音溝が細く埃が付着しやすいため)
割れやすさ 弾力がなく割れやすい 弾力がありほとんど割れない
反りやすさ 反りやすい
耐熱 比較的強い 弱い
水分 比較的強い 吸収すると変質することもある
重さ:LP LPより重い(30cmで約400g)
SPより軽い(30cmで約130g)
重量版(180g)もある
すぐとれる
付着しやすくとりにくい
(盤面と針の摩擦による静電気)
針圧 70-80gまで耐えられる 10g以下でないと傷む
カビ 生えることがある

【参考文献】
Jerry McWilliams. The Preservation and Restoration of Sound Recordings. The American Association for State and Local History, 1979.
http://d.hatena.ne.jp/filmpres/13530001
A. G. Pickett., M. M. Lemcoe. Preservation and Storage of Sound Recordings. Library of Congress, 1959. Reprinted by ARSC, 1991.
http://d.hatena.ne.jp/filmpres/13540001
Ken Howarth. Preservation and Storage of Sound Recordings., 1987. Society of Archivists., (Society of Archivists Information Leaflets).
録音資料の媒体変換に係るガイドライン調査報告書 第1版 国立国会図書館の委託調査に基づく報告書. オタリ株式会社, 2011.
竹原あき子. 魅せられてプラスチック:文化とデザイン. 光人社, 1994.
キーピング・アーカイブズ 第3版. オーストラリア・アーキビスト協会, 2008., (17章 音声記録).
※勉誠出版HP(http://bensei.jp/)に和訳が掲載されています。
【参考ウェブサイト】
NHK 鑑賞マニュアル 美の壺 File91 蓄音機(ちくおんき)[www.nhk.or.jp/tsubo/arc-20080606.html]
ファイル・ウェブ(オーディオビジュアルのポータルサイト)[www.phileweb.com] 林正義のオーディオ 講座 2008.09.04 第26回:レコードとアナログプレーヤーの仕組み 一般社団法人日本レコード協会[www.riaj.or.jp]

(2)適切な取扱いと保存方法

次の二つの引用にあるように、レコードは丁寧に取扱ってください。音溝部分に素手で触れないように、指先でラベル/レーベル部分を支え、親指の付け根を外周部に当てて持ちます。

レコードだけでなく、ターンテーブル(とりわけアームやカートリッジ部分)の取扱いにも細心の注意を払ってください。収集保存機関においては手洗いや手袋着用の徹底、オリジナルを再生する頻度を減らす工夫も求められます。原則として手を触れるのは職員のみという方針にも、正当性はあります。

「レコードを扱うのは島本さんの役だった。レコードをジャケットから 取り出し、溝に指を触れないように 両手でターンテーブルに載せ、 小さな刷毛でカートリッジのごみを払ってから、レコード盤にゆっくりと針をおろした。レコードが終わると、そこにほこり取りのスプレーをかけフェルトの布で拭いた。そしてレコードをジャケットにしまい、棚のもとあった場所に戻した。(中略)そのたびに僕は思ったものだった。彼女が扱っていたのはただのレコード盤ではなく、ガラス瓶の中に入れられた誰かの脆い魂のようなものではなかったのだろうかと」村上春樹(著)『国境の南、太陽の西』

「ジャケットの下のヘリをからだに当て、上のへりに手をかけて軽く押せばジャケットの口があくから、一方 の手を親指のレコードのヘリに当て、中指と薬指をラベルに当てるようにして、静かに取り出す。ジャケットに入れるときも同様。音溝に指先が触れないよう注意」文部省(編)『学校図書館における図書以外の資料の整理と利用』

長期的な保存のためには直射日光に当てない、暖房設備や電灯に近づけない、ジャケットやケースで保護するといった基本事項を守ってください。

LPレコードには通常、透明の内袋が使用されます(パラフィン、ポリエチレン、紙製等)。

SPレコードの外袋は、かつては収集保存機関で整理する際に廃棄されることもあったようですが、ラベル/レーベル同様、目録作業の際に重要となる文字情報が残されていることもあり、現在では捨てないで残すのが原則です。

年に一度はジャケットの埃を落とし、ディスク面を拭くことが推奨されます。

帯電しやすいLPレコードには埃が付着しやすく、付着した埃がクリック音やポップ音の原因となります。ディスク面を拭く際は、専用のパッドでやさしく音溝をなぞるようにします。汚れは水道水/精製水で洗い落とします(ぬるま湯で湿らせたガーゼでも可)。とくにひどい汚れには専用クリーナーも販売されています(例えば「バランスウォッシャー」等)。ただしアルコールや揮発油の使用は避けてください。

洗ったら屋内干しで縦置きのまま乾燥させます。レコードの乾燥専用ラックも販売されています。

収蔵庫の清掃の徹底は言うまでもなく、収蔵環境としては一定の温湿度(20度未満/45〜55%前後)に置くことが理想とされますが、ほとんどの収集保存機関では、視聴覚専用の収蔵庫を内部に持つこと、あるいは外部に収蔵スペースを借りることは現実的に難しいようです。その場合、予算に合わせて除湿庫の購入、除湿器の導入、除湿剤の使用といった改善策を試みるしかありません。

収蔵棚の設計も重要な要素となります。SPレコードは平置きが相応しいとされますが、LPレコードは平置きか縦置きかの選択肢があるようです(ただし、縦置きの場合は何らかのサポートが必要)。何れも反りの防止を念頭に置きます。例えば平置きの場合の1区画は10枚を上限とし、1区画の高さは約5cmを目安とします。小型のレコードは縦に並べてもほとんど反らないので、ドーナツ盤は縦置きで保管できます。

収蔵棚に扉を必ず付ける(省スペースにつながるのは引き戸です)、棚板にはガラスや金属ではなく湿気に強い木材を使用する、棚板は可動式とする(清掃しやすさのため)、といったことにも注意してください。機材の定期的なメンテナンスを怠らず、また、レコード自体の定期的なインスペクションとコンディション・ レポートの作成も欠かせません。オリジナルとコピーを異なる場所に分散保管するといった防災対策も検討すべきでしょう。


↑理想的な収蔵事例:金沢蓄音器館(2008年6月撮影)は2001年開館、SPレコード20,000枚以上が収蔵されています。運営母体は公益財団法人金沢文化振興財団。旧日比谷図書館でもレコードは平置きで収蔵されていました。

「アナログ・レコード辞典」(http://recdict.exblog.jp/)には、レコードの各部の名称が詳しく紹介されています。

【反ったレコードは元に戻せるでしょうか?】
雑誌 stereo(2010年9月号、音楽之友社)のQ&A欄に、収蔵時の圧力で反ってしまったレコードを元に戻す方法が掲載されています。一旦湾曲してしまったレコードは、上に重しを置くだけでは元に戻せません。3mmほどの厚みのガラス板にレコードを挟み、クランプ等を使ってしっかり固定し、屋外で長時間高温に置く(直射日光に晒す)と効果があるようです。海外のサイトでも同様の方法が紹介されています。また、専門業者による修復で「Vinyl Record Flattening Machine」が使用されていることがわかり、調べてみると「日本製」となっていました。「アナログディスク反り修正器」といった名称で販売されているようです。

おわりに

視聴覚資料の中でもアナログレコードは商業的価値が高く、比較的大切に保存されているメディアです(少なくとも廃棄決定は慎重に検討されています)。昨今ではターンテーブルやカセットデッキ等の再生器機も見直され始めました。地域映像アーカイブ事業や災害対策部のボランティア活動を通して、扱うことのできるメディアの幅を広げていくことの大切さを痛感しています。専門機関との連携を深めることによって、地域に残されたレコードの修復、復元、活用の道も探っていきたいと思います。

・以下もご参考になさってください。
戦前小型映画資料集 http://p.booklog.jp/book/33337
映画保存協会メールマガジン『メルマガ FPS』
Vol.37(2008.7.31), 38(2008.8.31)【特別連載】小型映画研究・グラフ映画とレコードトーキー(上)(下) 映画保存協会メールマガジン『メルマガ FPS』
Vol.38(2008.8.31)【レポート】金沢訪問記:金沢蓄音器館
Vol.49(2009.7.31)【映画保存見聞録 第8回】その1:東京都立日比谷図書館
FPS ゲストレクチャーVol.9
忘れられた映画伴奏史 〜レコードと無声映画〜 講師:片岡一郎氏(活動写真弁士) 2009.6.13 配布資料

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