被災した家庭用ビデオテープの応急処置

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被災した家庭用ビデオテープの応急処置

本テキストはビデオガイド(vimeo)とあわせてご利用ください。PDF版英語テキストもご用意しております。

* 水損フィルム(8mm)の応急措置につきましては、こちらをご覧ください。

【責任規定】
本テキストが提案するのは、被災した家庭用ビデオテープの応急処置の一例です。すべてのビデオテープがこの処置によって確実に救済されるという保証はありません。直接・間接を問わず、本テキストの使用によって生じる如何なる結果に対しても、映画保存協会は責任を負いません。何卒ご了承ください。

準備するもの:ゴム手袋(介護・医療用)、マスク、筆記用具とノート、定規、デジタルカメラ、バット2つ(バケツでも可)、固めのブラシ(歯ブラシ等)、毛先の柔らかい筆
、タオル、精密プラスドライバー(♯0か♯00、メガネ用)
、カッター、はさみ、ピンセット、テープ(セロテープ等)

あると便利なもの:精製水、ブロワー、ハンドドリルまたは直径1~2mmの穴を開ける道具(ネジ無しの圧着式ビデオテープを分解する場合)、カッターマット、Y型ドライバーもしくは星形ドライバー(VHSテープに特殊ネジが使われている場合)、VHS-Cアダプター(VHS-Cテープの再生用)、デッキ、モニター、ヘッドフォン(再生用)、除湿機またはサーキュレーター

はじめに

磁気テープにはオープンリールやベータマックス等、多数のフォーマットが存在しますが、ここではもっとも普及している(a)VHS(b)VHS-C(c)Hi8(d)miniDVという4つのフォーマットを〈家庭用ビデオテープ〉と総称し、それらが自然災害等の被害を受けた場合の応急処置を紹介します。

水害を受けた家庭用ビデオテープには、可能な限り早急(できることなら被災後48時間以内)に適切な処置を施す必要が生じます。なぜなら、カビやバクテリアの発生や磁気の消失、それに伴って粘着性を帯びる症状が現れ、短期間で映像再生を妨げる致命傷になることがあるからです。しかし、例えば海水等に汚染された家庭用ビデオテープが数ヶ月以上放置されていたとしても、映像・音声が完全に失われてしまうことは滅多にありません。どんなに状態が悪くても、決してあきらめないでください。

ここで紹介する応急処置は、専門的な知識や技術を持たない方でも実施できる方法の1つとして考案しました。この作業だけでは長期的な保存処置になりませんし、必ず救済できるという保証もありませんが、二度と見られなくなるような最悪の事態が回避される可能性は高まります。少しでも不安をお持ちの方、とくに貴重な映像をお持ちの方、あるいは(a)~(d)以外のフォーマットのビデオテープをお持ちの方は、事前に災害対策部までご相談ください。

[注意1]すべての作業を通して、ビデオテープの近くに磁気素材(磁気ネックレス、磁石、磁石付きの文具・玩具等)を置かないでください。映像にノイズが発生する原因になることがあります。

ビデオガイド その1 事前確認

First-Aid for Damaged Home Use Videotape Step 1. Assessment from Film Preservation Society on Vimeo.

[1]このガイドで使用する名称


左「保護ケース」 右「ビデオテープ」


左「磁気テープリール」 右「カセットシェル」


可動部分「リッド」

[2]ビデオテープの「フォーマット」の識別

家庭用ビデオテープには主に(a)〜(d)のフォーマットがあります。それぞれのフォーマット専用の再生機器(デッキ)があれば、処置後に再生確認を行い、応急処置が適切に行われたかどうか判断できます。


右から
(a)VHS(189×104×25)
(b)VHS-C(92×59×23)
(c)Hi8(96×63×25)
(d)miniDV(67×49×13)
単位はすべてmm(ミリ)(縦×横×高さ)

[3]ビデオテープの「状態」の識別

以下(A B C)にあてはまるビデオテープは、洗浄の対象から除外してください。


A 保護ケースやビデオテープの表面だけが汚れたり濡れたりしていて、カセットシェル内部の磁気テープには影響が及んでいない。


B 火災等でビデオテープが溶けていたり、物理的な破損で変形したりしている。


C カセットシェル内部の磁気テープにカビが大量発生している。

対処法
A 磁気テープは保護ケースとカセットシェルで2重に保護されており、内部の磁気テープまで被害が及んでいない可能性もあります。その場合、表面の汚れや水滴を拭くだけで再生できることもあります。ビデオテープを運ぶ際、汚れや水分が内部に入り込まないよう注意してください。

B 物理的に変形したビデオテープの再生は難しく、専門家による作業が必要となります。カセットシェルだけの損傷で、内部の磁気テープが無傷の場合は、磁気テープのみを取り出し、別の正常なカセットシェルに入れ替えることで再生できることもあります。

C カセットシェル内部にカビが発生したビデオテープをそのまま再生すると、デッキが故障することがあります。簡易洗浄だけで大量のカビを除去することは難しく、専門家による作業が必要です(少量のカビなら除去できます)。

ビデオガイド その2 簡易洗浄

First-Aid for Damaged Home Use Videotape Step 2. Simple&Easy Washing from Film Preservation Society on Vimeo.

1. ビデオテープの表面に汚れがある場合は、タオルで簡単に拭き取ります。

2.ビデオテープに付随する文字情報を、デジタルカメラもしくはスケッチで記録します。洗浄によって文字情報が消える恐れがあるため、どのビデオテープに付随する記録かを後で判別できるように、すべてのビデオテープをナンバリングすることをお勧めします。

3.ビデオテープに背ラベルがある場合は、カッターで縦に切り目を入れます。

4.ビデオテープ裏面のネジをすべて外します(2~5本)。VHSにはY型や星形のネジが使用されていることがあります。その場合は形状に合ったドライバーを使用して分解してください。VHS-Cは、ネジを外す他に精密ドライバー等で爪(3ヶ所)を外す作業が必要になります。最近ではネジを使わない圧着式ビデオテープも存在します。その場合は通常ネジがある穴に何もありませんので、ネジ穴をハンドドリル等で貫通させてビデオテープを分解します。

5. カセットシェルのフタをゆっくり開けます。逆さにしてフタを開けると、磁気テープリールが飛び出したり部品が落ちたりする恐れがあるため、上フタから開けるようにしてください。

6.磁気テープリールを取り出し、安全な場所に置きます。磁気テープがトップやエンドではなく途中で止まっている場合は、そのまま洗浄してください。洗浄前にトップやエンドに巻き直そうとすると、汚れが中に入り込んでしまうリスクが生じます。磁気テープが途中で切れている場合もそのまま洗浄してください。補修は洗浄後に行います。

[注意2]磁気テープは折れ目が付き易いので丁寧に扱ってください。小さな折れ目でもノイズの発生原因となり得ます。また、磁気テープ表面には決して素手で触れないでください。

7.カセットシェル内の部品を1つずつ取り外します。戻す位置が分からなくならないよう、事前にデジタルカメラやスケッチで記録してください。同じフォーマットのビデオテープでも、製造会社や年代によって使用されている部品が異なることがあります。

カセットシェル内部の部品:
1 リールストッパー
2 誤消去防止ツメ
3 走行ローラー
4 リッド固定部分
5 ブレード
6 中央部分


VHS(1、3、4、5)


VHS-C(1、2、3、5)


Hi8(1、2、6)


miniDV(1、2、4、6)


カセットシェルの上フタにあるリッド固定バネ(すべてのビデオテープに共通して有ります)

8. 水を張ったバットを2つ用意します(1つは磁気テープリール洗浄用、もう1つはそれ以外の部分の洗浄用)。水道水には塩素が含まれているため、磁気テープリール洗浄には可能であれば精製水の使用をお勧めします。

9. ブラシを使って磁気テープリール以外の部品をバットの水で洗います。すべての汚れを落としてください。

10. 洗い終わったらタオル等の上に置いて乾燥させます。

11. 磁気テープのリールに付いた汚れをタオルで簡単に拭き取ります。

[注意3]タオルが磁気テープ表面に触れないようにしてください。

12. 磁気テープを2~3周ほどき、磁気テープリール洗浄用バット内に浸してゆっくりと動かしながらすすぎます。それでも磁気テープやリールに汚れが残るような場合は、毛先の柔らかい筆を使って丁寧にすべての汚れを落としてください。

13. 洗い終わった磁気テープはタオルの上で乾燥させます。乾燥には数日から数週間かかります。ブロワーで磁気テープリール内の水分を飛ばすと乾燥時間を短縮できます。また、乾燥時は磁気テープリールを垂直に立てて置くと乾きやすくなります。乾燥させるのに相応しい場所は、低湿度で風通しが良く、直射日光の当たらない清潔な場所です(常温で問題ありませんが、氷点下になるような環境は避けてください)。除湿器やサーキュレーターを作動させる方法もあります。乾燥に時間をかけすぎたり、逆に乾燥が不均一になるほどの熱を加えたりすると、ノイズが発生する原因になることがあります。

ビデオガイド その3 組み立て

First-Aid for Damaged Home Use Videotape Step 3. Assemblage from Film Preservation Society on Vimeo.

1. 磁気テープが完全に乾燥しているかどうかを確認します。

(1)走行ローラーのあるビデオテープ(VHS、VHS-C)は、走行ローラーのみカセットシェル内に戻します。
(2)最初に装填されていた走行ルート通りに、磁気テープをカセットシェルにセットします。
(3)磁気テープを逆側のリールに手動で完全に巻き取ります。一度巻き返すことで、磁気テープが正常な状態にあるかどうかを確認できます。状態が悪いと、部分的に貼り付いていたり、溶けていたり、変形したりしています。
(4)巻き返す前に磁気テープがあった側のリールに水滴が残っていなければ、乾燥は終了です。

2. 磁気テープに「裂け」や「切断」がある場合は補修をします。

(1)切断した磁気テープの先端同士を重ね合わせ、重なり合った部分をカッターで切ります。定規を使用すると切りやすくなります。
(2)カッターで切った後の先端同士を、セロテープ等で隙間ができないように貼り合わせます。
(3)はみ出たセロテープの両端をハサミで切ります。



[注意4]
セロテープは必ずベース側の片面のみに貼ってください。ロールの内側の光沢の無い面がベース側です。逆側に貼ってしまうと、映像が出なかったり再生が出来なかったりすることがあります。

3. 事前に撮影した写真やスケッチを参考に、カセットシェル内のはずした部品をすべて元通りに戻してください。細かい作業のため、ピンセットを使うと効率的です。


[注意5]リールストッパーを戻す際は、リールとリールストッパーがきちんと噛み合っていることを確認してください。

【部品を元に戻せなくなった場合の処置】
被災していない同一フォーマットのビデオテープがあれば、カセットシェルごと交換して組み立て直すことができます。この場合、細かい部品を取り外さずに済みます。

4.すべての部品を元に戻したら、カセットシェルのフタを閉めます。リッドを持ち上げたまま閉めると、閉めやすくなります。

5. カセットシェルのフタを閉めたら、リッドがスムーズに開くかどうか確認してください。リッドの固定部品を押すことでリッドの開閉の確認が出来るようになります。

6. ビデオテープ背面をネジで元通り固定します。ネジ無しの圧着式ビデオテープの場合は、セロテープで両サイドを固定してください。

以上で被災した家庭用ビデオテープの応急処置はすべて終了です。応急処置後のビデオテープは、できるだけ早く再生確認またはダビングすることをお勧めします。

【再生確認する際の注意点】
ビデオテープに汚れが残っている場合や物理的な変形がある場合は、部分的に画または音にノイズが発生する可能性があります。ノイズの発生原因としては、ビデオテープ自体の問題と、再生デッキのヘッドの問題の2つが考えられます。ビデオテープ自体の汚れの場合は、再び簡易洗浄を行うことをお勧めします。繰り返し洗浄してもノイズが多い場合、被災する前からノイズが存在していた可能性もあります。被災していない正常なビデオテープを再生させてもノイズが発生する場合は、再生デッキのヘッドに問題がある可能性が高いので、市販のクリーニング用テープの使用をお勧めします。

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