この文章は、ホームムービーの日(HMD)2004@東京に備え、16mm映写機講習会に参加したときのものです。「HMDをやりたいけど、映写って簡単にできるの?」という方はもちろん、「映画保存には興味あるけど、身近でフィルムについて学んだり、実際にフィルムに触ったりできる機会はないかな」とお悩みの方も、ご一読のうえ、ぜひ地域の講習会にご参加ください。
今回、HMD2004@東京は文京区内の公民館で開催されるので、施設の映写機を使用するには修了証がどうしても必要です。HMDは8月なのに、文京区での講習会は10月。それでは間に合いません!文京区の担当者に泣きついたら「隣の北区でやるよ」と教えてくれ、締切り当日の夜、北区に駆け込んであやうくセーフ。ちなみに修了証は全国どの自治体で取得してもよく、ほぼ全国で通用するそうです。しかしいまどき、どんな人が映写機の講習なんか受けにくるのでしょうか。まったく想像がつきません。
<1日目> | |
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午前 | 講義(映写・音響の原理、機構部、映画フィルムの性質) |
午後 | 実技(三人一組で16mm映写機の操作を練習) |
映画上映「16ミリと映写機 フィルムを傷めないために」 | |
実技つづき | |
<2日目> | |
午前 | 講義(映写機清掃、映画フィルムの修復、映写会場、故障発見) |
午後 | 実技(映写機操作、清掃、フィルム修復) |
個別操作テスト(全員合格が基本) |
2日間みっちり、フィルムと映写機に触れます。今回集まった受講生は14名。50代前後の元気なおじさんおばさんが多いなか、20代の女性(保育士とボランティア)もちらほら。私の隣にはなんと女子高生が座っていました。そうこなくては!かっこいいところを見せねばと気合いを入れて、さあ、講習スタートです!
講師の武田正先生は元日比谷図書館の映写技師、全国を行脚してフィルム映写の普及につとめているという、映画保存をもくろむ私たちにとってみれば伝道師のような存在です。最初の講義では、映写機を分解したパーツを実際に触れ、映写の原理と映写機の機構を学びます。たとえば、フィルムをただ回転させても(連続運動)、画はただ流れるばかりで、映画のような動く映像にはなりません。動く映像として認識できるには、フィルムをひとコマずつ瞬間的に停止させて、断続的に映さなければならないのです(間欠運動)。したがって映写機には、フィルムを一定速度で送る連続運動と、フィルムを停止させながら送る間欠運動の両方を行う機構があります。さらにフィルムが音付きの場合、1コマ1コマが完全に途切れている映像とは異なって、音声はフィルム上に連続して情報が焼き込まれているので、なめらかにフィルムを送り連続した情報を読まなければなりません。リールからフィルムを送り出す連続運動→レンズ前の間欠運動→音声を読む連続運動→巻きとりリールへと送る連続運動の4つのプロセスを結ぶちょうど「→」のところ、すなわち3か所にパーフォレーション(フィルムの両サイドにある穴)をかきとってフィルムを送るための「スプロケット」あることになります。文字だけだとわかりにくいと思いますが、エルモのマニュアル式映写機の現物を目の前に聞くので、映写機を見るのも初めてという人にもとてもよくわかります。
次にフィルムの性質について学びました。可燃性のナイトレートと不燃性のアセテートというおなじみの話(映画保存とは?)はさわり程度、まずは触ってみましょうということで、35mm、16mm、8mm、三色分解35mmカラーポジ(!)、さらには70mmや9.5mmといった珍しいものまで実物のフィルムをみんなで触りまくります。それだけではありません。あやまった映写操作によって破損した無惨なフィルムの数々を見せられ、最後には「映写のときにフィルムを切ってしまう」恐怖を克服するために、ひとりずつ実際にリーダー・フィルムを引き裂くように命じられます。私は血を見ると気を失うくらい臆病なので、保存のために腐心しているフィルムを引き裂けと命じられ、気を失いそうになりましたが、みんなはまるで子どもが虫を平気で押しつぶすように楽しげにプチプチと切っていました(アセテート・フィルムはほんとにプチプチとよい音をたてて切れます。最近のフィルムは切れにくくなっているそうです)。
お昼休憩をはさんでようやく実技!班ごとに一台ずつ映写機を割り当てられ、一人が操作している間に二人が正しく操作できているかをチェックします。映写機のうち、マニュアル機(フィルムの手動でスプロケットに装填する)はエルモ一台のみ、あとは自動でフィルムを装填するオートロード型でした。マニュアル機は五年後には姿を消すでしょうね、と先生はさびしそうに言っていましたが、映写機自体はどうなんでしょう、と思わずつっこみたくなるような微笑ましい話です。アーム起こしから、フィルム装填、映写、フィルムの巻き取りまで一連の操作をひたすら繰り返します。途中で映画「16ミリと映写機 フィルムを傷めないために」を挟んで、あっという間に4時。みんなもっと練習したい、といった様子でしたが、初日終了です。
初日にマニュアル機の操作が練習できなかったので、試験に備えて早く行って朝練でも、と思いきや、すでにみんな集まっていてそれぞれ練習しています。きのうまでフィルムが何かも知らなかったのに、いまやすっかりフィルムの魅力と映写の楽しさにとりつかれてしまったみたいです。
二日目の講義は、映写機のメンテナンスから始まりました。一刻も早く実技がしたいのか、みんなぼんやり聞いていて眠そうです。アパチャーと呼ばれるフィルム窓の清掃を忘れると、画面が汚れたり、フィルムを傷つけたりする、と、とても大事なことを話しているのですが…。続いて、破損したフィルムの修復、名前は何度も聞いたことのあるスプライサーの登場です。スプライサーとはフィルムを切ったりつないだりする道具。テープを装填して、ちぎれたフィルムをセットし、穴開けパンチの要領で圧すと、きちんとパーフォレーションの穴が開いてフィルムを元通りに接合できます。私はこれをやってようやくきのうのフィルム引き裂きのトラウマから立ち直れました。午後まで待ちきれないみんなの様子に、先生も諦めたのか、早々に実技へ。操作に慣れたチームはタイムトライアルをして競っています。ホームムービーの日という実戦が間近の私は、清掃法とハロゲンランプの交換をていねいに教わりました。ついでにインダクション・モーターとガバナー・モーターの違いなど、少しつっこんだ話も聞き出しました。にわかに元理系の魂がよみがえります。
そしていよいよ最終テスト。ひとりずつ別室に呼び出され、映写機のチェックと映写操作を行います。そして14名全員がAないしB評価で見事合格!三週間後には修了証が届きます。こうして講習会はぶじ終了。先生が最後に強調していたのは、なるべく早く実際に上映する機会を見つけることでした。がんばって講習会に出ても、ほとんどの人が上映することなく忘れてしまうそうです。せっかく花を咲かせても、翌年にはもう「夢のあと」と枯れてしまうのでは、花咲か爺さんもさびしいかぎりでしょう。
でも私には幸運にも、HMD@東京が目の前に控えています。さあ、これで、あとはフィルムが集まれば…!?
映画保存に興味があっても、日頃フィルムに触れる機会は少ないのではないでしょうか。映写機講習会は、地元で、楽しく、気軽にフィルムに触れ、学ぶことができる数少ないチャンスです。保育園で子どもたちに映写をしたい!という保育士さん、夏休みに野外映画会をやりたい!というボランティアのお姉さん、市民センターの無料企画にはかたっぱしから参加してたまたま講習会に当たったお兄さん、これが生涯最初で最後の映写体験になるかも、という近所のおじいさん、アンタが誘ったのよ!といいあうお母さんコンビ…みなさんの近くにも意外な「映写技師」がいるかもしれません。さっそく近所の映写機講習会情報をチェックして、フィルムや映写機に触れにいきましょう!(N)
◎2004年6月26・27日 東京都北区・滝野川文化センター
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