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16mmフィルムのビネガーシンドローム対策

作成:2014.01.25 更新:2019.01.10

収集保存機関の棚にはたくさんの16mmフィルムが眠っています

16mm
図書館や公民館等に併設されていることの多い視聴覚ライブラリーには、多くの貸出用16mmフィルム(教材映画、劇映画、アニメーション…)が収蔵されています。こうした16mmフィルムは大抵の場合、映写用のリールに巻かれ、右画像のように正方形のケースに入った状態で、常温の収蔵室の棚に縦置きで保管されています。ケース内のフィルムは薄手の保護袋に入っている場合もあります。年に1回程度はフィルムを取り出し、状態を確認しながら巻き返すことが推奨されますが、その際に酢酸臭を発しているフィルムが見つかることもあるかもしれません。

全国の視聴覚ライブラリーのリスト(16mmフィルムの所蔵本数)を当HPの「リンク集」に掲載しています。
視聴覚ライブラリー所蔵16mmフィルムの保護袋には、ショーレックスという名称の半透明のサラサラした手触りの袋が適しています(「ショーレックス」で検索してみてください)。ただし、保護袋の使用を禁止しているフィルムアーカイブもあります(小会主催によるNFC〔現NFAJ〕相模原分館見学時のヒアリングによる)。

ビネガーシンドロームに特効薬はありません

酢酸臭は劣化が進行している証拠です。この症状を〈ビネガーシンドローム〉と呼びます。酢酸臭を発している段階では、もはや劣化の進行を止めることはできませんが、とりあえずの措置として冷蔵または冷凍保管することによって、進行を遅らせることは可能です。残念ながら、今のところほかに対処方法はありません。また、劣化したフィルムの上映は本来は控えるべきです。

酢酸の吸着シート等も販売されていますが、主に小ロールの写真フィルムやマイクロフィルム用に開発された商品と思われ、劣化した映画フィルムに使用しても効果は期待できませんし、場合によっては悪影響を及ぼすこともあります。また「劣化フィルムは常温でも発火するので極めて危険」といった記述を見かけることがありますが、それはナイトレート・フィルムの特徴です。16mmフィルムはアセテート・フィルムという種類で、燃えないわけではありませんが、常温で自然発火することはありません。

冷蔵倉庫がある場合

温度と湿度が低く一定に保たれた適切な収蔵環境をお持ちの場合で、上映も外部への貸出しも二度とされないのであれば、フィルムをリールから外して3インチのコアに緩く巻き直し、長期保存用の通気の良いケースに入れ替え、水平置きで保管します。コアは劣化しづらい素材を探して購入してください(購入先については別途ご相談ください)。ケースの設計にもよりますが、複数のケースを積み重ねないでください。劣化が進行しているフィルムを袋やケースから出して巻き返すと酢酸臭が弱まることもありますが、劣化の進行が止まるわけではありません。必ず低温低湿の環境で保管し続けてください。

冷蔵倉庫がない場合

適切な収蔵環境をお持ちでない場合は、民間企業が提供している映画フィルム専用の倉庫にお預けになるか、あるいは映画フィルム専用の倉庫(ビネガー専用室等)を備えた収集保存機関への寄贈・寄託を検討してください。ただし、図書館等で利用されてきた16mmフィルムは快く受け入れていただけなかったり、劣化を理由に断られたりすることもあります。どうにか受け入れていただけることになっても、フィルムの送料等の負担を強いられるかもしれません。また、場合によっては寄贈手続きに長い時間(数ヶ月〜1年以上)を要することもありますので、救済にはそれなりの覚悟が必要です。どうかあきらめずに頑張ってください。小会では寄贈仲介のボランティアも行っていますので、お気軽にご相談ください。

>> 映画保存リンク集:フィルムアーカイブ

>> 映画保存リンク集:関連企業(→「4. 収蔵庫」へ)

より詳しくは「映画保存とは」にある『フィルム保存入門』等の基礎テキストをご一読ください。

劣化が進行しているフィルム、またはコレクション全体に対してできるいくつかのこと

物理的な状態の確認と簡易的な目録の作成

最低限、手元に何がどれだけあるのか把握してください。寄贈時に簡易目録が必要になることもあります。

収蔵環境や劣化状況等の記録

フィルムごとにカルテ(インスペクションシート)を作成してください。フィルムの外形や劣化部分等を撮影しておくと役立つことがあります。
小会では過去に調査マニュアルの配布や研修を行っていました。当時のカルテの見本もご提供しています。

旧小型映画部
文京映像史料館
通常版:インスペクションシート
簡易版:チェックシート(「ホームムービーの日」世話人用)

ビネガーシンドロームに感染したフィルムの隔離

酢酸は、劣化していないフィルムに悪影響を及ぼします。紙資料や人体にも害があるといわれます。

唯一無二のフィルムかどうかの確認

制作会社や収集保存機関に電話をして同作品の原版や上映プリントの所蔵の有無を確認したり、全国の視聴覚ライブラリーの所蔵目録等と照合します。文化庁等の複数のデータベースを以下に紹介していますが、所蔵確認のための全国的な横断検索はできませんので根気を要する作業です。

>> 映画保存リンク集:日本映画のデータベース

コンテンツ救済のためのデジタル化の検討

本来は権利者に無断で複製することはできませんが、唯一無二と思われるフィルムの劣化が進行している場合、デジタル化するしか救済の道がない場合もあります。作品によっては利活用に向けて映画研究者やマスコミ各社の協力が得られるかもしれません。

フィルムを捨てない

フィルムを廃棄処分される際は、小会までご相談ください。小会ではフィルムの蒐集は行っておりませんが、ボランティアで適切な寄贈先を探してご紹介しています。

専門企業の研修を受ける

映画フィルムの取り扱い方法を学ぶことのできる(有償/無償の)研修を実施している業者もあります。出張ワークショップ等も可能な場合がありますので、ぜひご相談ください。

ご意見ご質問等もお気軽にお寄せください。info@filmpres.org

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