タグ別アーカイブ: ナイトレート

7月29日の火災に関するシネマテカ・ブラジレイラ労働者の声明

2021年7月29日の夜、〔サンパウロの〕ヴィラ・レオポウジナ地区にあるシネマテカ・ブラジレイラの建物を襲った火災は、いわば予告された犯罪でした。この火災の結果、ブラジル映画史を構成するはかり知れない数の作品やドキュメントが失われました。レオポウジナの施設は、シネマテカ・ブラジレイラのコレクションの大部分を収蔵するヴィラ・クレメンチノの主要施設を補足する存在でしたが、最近では2020年2月に洪水が発生し、ドキュメントや視聴覚コレクションのほとんどが浸水の被害を受けたばかりです。

昨年わたしたちは、シネマテカの内部にドキュメンテーション・保存・普及を担う労働者が不在であり、いつ火災が起きてもおかしくない状態にあることを公に訴え、あわせてクレメンチノのナイトレート・コレクションが危険に晒されていることも警告しました。ナイトレート・フィルムはとても燃えやすい性質で、定期的な検査(インスペクション)を怠ると自然発火の可能性も否定できません。今回の――シネマテカ設立以来5度目の――火災はナイトレートの発火が原因ではありませんでしたが、いずれにしても、労働者が雇用され、日常業務が滞りなく遂行されていれば、多くの損失を回避できたに違いありません。

シネマテカが政府に見捨てられ、運営母体だったACERP(Associação de Comunicação Educativa Roquette Pinto)から残りの給与や退職金も支払われないまま技術スタッフ全員が解雇されてから、8月8日で1年になります。もっとも、整備・消防・清掃チームは新たに雇用されたようです。整備・消防・清掃は確かにフィルムアーカイブの機能に不可欠ですが、それだけでは不十分であることは、このような惨事の発生からも明らかです。

この1年のあいだ専門的な技術スタッフ不在の中で、フィルム素材とその保存存状態は取り返しのつかない悪影響を受け、状況はさらに厳しくなりました。火災による焼失だけでなく、様々な素材の寿命が極端に短くなってしまったのです。とりわけナイトレート・フィルムやアセテート・フィルムの劣化は深刻です。専門家チームが復帰しない限り、被害の全貌を正しく把握することも、保存活動を再開することも、シネマテカ自体を再建することもできません。

レオポウジナに収蔵されていて、7月29日の火災で失われたか、あるいは何らかの被害を受けた可能性のあるコレクションは、数こそ少ないものの、クレメンチノに収蔵されているコレクションと深いつながりがあり、同等に重要なものでした。その一部を以下に紹介します。

ドキュメンテーション・コレクション

解散した「Embrafilme – Empresa Brasileira de Filmes S.A.」(1969-1990年)のアーカイブズの大部分、「Instituto Nacional do Cinema – INC」(1966-1975年)と「Concine – Conselho Nacional de Cinema」(1976-1990年)のアーカイブズの一部、そして査定段階にあった多くのドキュメント。これら資料の一部は、2020年2月に発生した大洪水の後、再び浸水の被害を受けるのを防ぐため収蔵庫1階から空調設備のある2階へと移された。その2階が主に今回の火災の被害を受けた。ドキュメントの一部はリオデジャネイロの「Tempo Glauber Archive」から取得したもので、グラウベル・ローシャ図書館所蔵資料の複製やシネマテカ自体の内部文書も含まれていた。

視聴覚コレクション

配給会社「Pandora Filmes」のコレクションの一部には35mmのブラジル映画および外国映画のプリントが含まれた。ニュース映画、予告篇、広告、ドキュメンタリー映画、劇映画、ブラジル映画の唯一無二の原版やプリント。このコレクションの一部は浸水の影響も受けていた。ECA/USP(サンパウロ大学コミュニケーション&芸術学部)のコレクションの一部で、学生が制作した16mmと35mmの作品、そしてジャーナリスト、グラール・デ・アンドラーデ氏のビデオ・コレクションの一部も。

映画・写真・現像機材コレクション

博物館的な価値に加え、フィルムやビデオの上映や複製には市場に出回っていない旧式の機材が必要である。このコレクションの多くはまた、現役の機材の修理部品の供給源としても役立っていた。

今回の火災を理由の一つとして、わたしたちは焦土化政策と国家の記憶の抹消政策をなんとしても終わらせねばなりません。わたしたちは、〔新型コロナウイルスで〕亡くなった50万人以上のブラジル人の死を悼み、そしてまた、今回経験したわたしたちの歴史の損失を嘆いています。2016年にはシネマテカで、2018年には国立博物館で、そして2021年に再びシネマテカで壊滅的な災害が発生しました。予防可能だったパンデミックによる死者に加え、残念なことに、わたしたちはブラジルの歴史的・文化的遺産の一部まで失ってしまったのです。

もう二度とシネマテカ・ブラシレイラが予防可能な災害に襲われるようなことがあってはなりません。ACERPのような民間団体への運営委託はいかにも脆い失策でした。そのような運営モデルは、大規模で複雑な文化機関には向いていません。政府の公式発表の内容は空虚で、まともな議論もなければ透明性もなく、そこに市民や文化施設の労働者、そしてわたしたち、シネマテカの元労働者グループの声は反映されず、何の解決にもなっていません。また、政府が発表した予算が必要な金額を大幅に下回るものであることをここに明言します。シネマテカ・ブラジレイラに必要なのは、長期的に安定した条件で雇用された技術チームと、ブラジルの視聴覚遺産の保存と普及に見合った予算です。

労働者がいなければ、アーカイブズを保存することはできません!

Workers of the Cinemateca Brasileira
2021年7月末日
(via AMIA-International Outreach Committee)

コレクティフ・アジア 日本プログラム

日本のプログラムが決定しました。第4回(7月)は「現代日本映画」、そして今年度のコレクティフ・アジア最終回となる第6回(9月)は「日本の無声映画」をお届けします。どうぞご期待ください!

*テーマや講師は予告なく変更になる場合があります。
*何れの配信も無料ですが事前予約が必要です(先着100名限定)。以下のコレクティフ・アジア公式ウェブサイトからお申し込みください。
*現在7月のプログラムのみご予約を受付中です。
>> コレクティフ・アジア kolektif ASIA

コレクティフ・アジア 上映&トーク

第4回「現代日本映画」

【日時】 2021年7月22日(木) 日本時間21:00〜

【上映作品(Eventive)】 小森はるか+瀬尾夏美監督

『二重のまち/交代地のうたを編む』(2019)79分

陸前高田を訪れる4人の旅人。彼らはまだ若く、2011年のあの日の出来事から空間的にも時間的にも、遠く離れた場所からやって来た。大津波にさらわれたかつてのまちのことも、嵩上げ工事の後につくられた新しいまちのことも知らない。旅人たちは、その風景の中で、人びとの声に耳を傾け、対話を重ねる。そして、物語「二重のまち」を朗読する。

【トークゲスト(Zoom)】 小森はるか+瀬尾夏美監督
映像作家の小森はるかと画家で作家の瀬尾夏美によるアートユニット。2011年4月に、ボランティアとして東北沿岸地域を訪れたことをきっかけに活動を開始。翌 2012年、岩手県陸前高田に拠点を移し、人々の語り、暮らし、風景の記録をテーマに制作を続ける。2015年仙台にて、東北で活動する仲間とともに、記録を受け渡すための表現をつくる組織「一般社団法人 NOOK」を設立。

>> 映画『二重のまち/交代地のうたを編む』公式サイト

第6回「日本の無声映画」

【日時】 2021年9月23日(木) 日本時間21:00〜

【上映作品(Eventive)】 印南弘監督

『黄金の弾丸』[不完全、染色版](1927)91分

鉱山王の老人が「黄金の弾丸」によって射殺された。真相究明に乗り出した私立探偵・猪俣と怪盗「愛の賊」の勝負の行方は…

画像提供:神戸映画資料館

画像提供:神戸映画資料館

関東大震災以後、阪神間の各地に映画撮影所が生まれ、ハイカラな都市イメージを背景として現代劇が盛んに作られた。しかし当時のフィルムはほとんど残っていない。それだけに貴重な本作は、東亜キネマ甲陽園撮影所で製作された無声映画の黄金時代の探偵活劇であり、旧居留地跡でのカーチェイスや神戸港でのラストシーンなど大正末期の神戸の風景を堪能できる。神戸映画資料館所蔵の染色版(全7巻のうち第5巻が欠落)を国立近代美術館フィルムセンター(現国立映画アーカイブ)が2003年に復元。コレクティフ・アジアではインタータイトルだけでなく説明台本にも字幕(英語、タイ語、インドネシア語)を付す。

大森くみこ(活動写真弁士)
プロフィール:国内外の映画祭、無声映画上映会、寄席等に出演。2019年にはロサンゼルスで行われた「The Art of the Benshi」にて活弁を行い、スタンディングオベーションの喝采を博す。TV・ラジオパーソナリティー、ナレーターとしても活躍。おじさんから可憐な少女まで幅広いキャラクターづくりが持ち味。

天宮遥(ピアニスト)
プロフィール:日本で希少なサイレント映画伴奏ピアニストとして、映画祭や上映会に出演。スクリーンの映像を見ながら作品を彩る即興演奏には定評があり、コメディーからシリアスな作品まで幅広く伴奏を手掛けている。「黄金の弾丸」の舞台、神戸出身。

【トークゲスト(Zoom)】 田中範子(神戸映画資料館 支配人)
プロフィール:大阪出身。映画祭スタッフや映写技師等を経て、2007年の神戸映画資料館開館より支配人を務める。併設シアターの上映企画のほか、神戸映像アーカイブ実行委員会のとして神戸発掘映画祭の実施や市民参加型のフィルムアーカイブ活動に取り組む。2019年に安井喜雄館長とともにNPO法人を立ち上げ所蔵資料の調査・活用を進めている。

>> コレクティフ・アジア 上映会+トーク

コレクティフ・アジア レクチャー

第4回「現代日本映画」

「イメージとメディア--「震災」をアーカイブする」

【日時】 2021年7月29日(木) 日本時間21:00〜

【講師】 高森順子(社会心理学者/阪神大震災を記録し続ける会)
プロフィール:1984年神戸市生まれ。社会心理学者、愛知淑徳大学助教。専門はグループ・ダイナミックス。2010年より阪神・淡路大震災の手記集制作を行う「阪神大震災を記録しつづける会」事務局長。2014年に井植文化賞(報道出版部門)受賞。2011年より3年間、「人と防災未来センター」において災害資料を収集、保存、公開、展示する実務を担当。被災体験の分有の場の創出に関するアクションリサーチを継続している。

第6回「日本の無声映画」

「アジア文化における視覚芸術説明文化の考察」

【日時】 2021年9月30日(木) 日本時間21:00〜

【講師】 片岡一郎(活動写真弁士)
プロフィール:2002年に澤登翠に入門。総演目数は約350作品。18ヶ国で公演。行定勲『春の雪』や大河ドラマ『いだてん』に出演。周防正行『カツベン!』では出演、実技指導、時代考証を担当。2020年、活動写真弁士の歴史をまとめた『活動写真弁史』を刊行した。ロストフィルムの発掘にも尽力し『忠臣蔵』『Our Pet』などを発見した。

>> コレクティフ・アジア オンライン・レクチャー

神戸発掘映画祭2020『甦った世界の映画』

神戸発掘映画祭(神戸映像アーカイブ)が作成した“映画の発掘”や“フィルムアーカイブ”の歩みと現在を知るためのガイドブック『甦った世界の映画』に僅かばかりご協力しました。世界8カ国の映画保存史と復元作品が紹介されているほか、後半では神戸映画資料館のあゆみが紹介されています。ぜひお手に取ってご覧ください。
また、本出版と同時に『黄金の弾丸』(東亜キネマ 1927)の有料配信がスタートします。あわせてご注目ください。

なお、「神戸発掘映画祭2020」は2月に延期されました。開催日程(予定)は2021年2月11日(木・祝)〜14日(日)です。

>> 神戸発掘映画祭

シネマテカ・ブラジレイラ救済

南米最大のフィルムアーカイブ「シネマテカ・ブラジレイラ」(サンパウロ)が危機的な状況にあり、世界の仲間に助けを求めています。
文化省が理事を解任した2013年以降、弱体化を余儀なくされていたシネマテカは、目下、財政破綻による閉鎖の危機に直面しています。映画保存の専門家の雇用も、低温湿度下での視聴覚資料の保管も継続できなくなっています。
シネマテカの運営組織 Associaçãode Comunicação Educativa Roquete Pinto (ACERP)と政府の契約が教育省の主導で終了し、現在シネマテカを管轄する文化特別事務局からACERPに必要な予算が与えられていません。
旧文化省視聴覚事務局の失策の結果、シネマテカでは2016年2月に大規模な火災が発生し、何千本もの貴重な映画フィルムが失われました。さらに2020年2月、コレクションの一部を保管するレオポウジナ地区の施設が洪水の被害に見舞われました。その損失は明らかになっておらず、救済措置も何ら講じられていません。
政府の対応を待つばかりでは、ブラジルの視聴覚遺産は永久に失われてしまうでしょう。いまこそ行動を起こさねばなりません。
(2020年6月 via AMIA-International Outreach Committee and Ray Edmondson)

>> 救済を求める署名
>> 職員支援のための寄付